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冷たい冷気に身を縮み込ませ、身体に軽く掛かっていた毛布を手繰り寄せ暖をとる。 嗅いだことのない毛布の臭いに目を覚まし、寝起きであまり働いていない脳で『宿か』と考えまた眠りにつこうとした。 そういえばやけに静かだ。いつもなら大きなイビキが聴こえてくるのに… 「あ…そうか」 思い出した。連れ去られたんだ。 身体を毛布で包んで冷たい床に立ち上がればジャラリと固い音が聞こえた。 「用心深いな…意味はないけど」 さて、部屋には私一人。 時間はどれほど経ったのだろうか… キョロキョロと辺りを見渡していればドアの開く音。 見れば食事を持って八百鼡が入ってきた。 「毒は入ってませんので」 「入ってたとしてもなんとか自分でしますんで」 デスクに置かれたお盆に乗っかっているパンを手に取ると咀嚼する。 不味くはないが美味しくもないそんなパンに少しだけ顔を歪める。 そういえば前のセカイで似たことがあったな…時間の無駄だった一ヶ月を思い出す。 あれは私が13の時だった。 有名になって数年も経っていたためかなりの騒ぎになっていたのを思い出す。 「あ、食べ終わったら移動していただきます」 恐らくあのばばあの所だろう。 …ちっ、あのばばあ嫌いなんだよな。 内心そう考えながらもう一口かじりつく。 するとノック音が聞こえることなくドアが開いた。 「…女性のいる部屋に入るマナーがなってないと思いますけど」 にこりと音がしそうな作り笑いを浮かべて入ってきた男に言い放つ。 隣にいた八百鼡は私の言葉に顔をしかめる。 「人間の癖に生意気だな」 「で、何ですか?"妖怪の王子様"が人間なんかに」 嫌味のようにそう言えば睨んできた。 と、 「うわ、怖いなお前ら。会ったばっかじゃないのか?」 ノックも無しにズカズカと男が入ってきてそう言った。 …少々キレても良いかしら。 「"足の枷は水。私は虎"」 そう呟けば枷は水となり、身体は筋肉のついた金色に輝きを放つ毛並みを持った大虎となった。 そして先程入ってきた男に向かって跳んで目の前に着地した。 これくらいで腰を抜かすなよ、と内心思いつつ元の姿に戻る。 そして八百鼡に何処に行くのか尋ね、あのクソばばあのいる牛魔王の部屋に向かった。 「…早く戻らなければ」 そう考えながら一本道を颯爽と歩いていった。
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