「アタシ達はね茲燕が生きていることを願うばかりだよ…」
その言葉に悟浄が反応する。
「『ジエン』…!?その男『ジエン』ってのか!?」
八戒を見ると困ったようにも見える顔。
三蔵と悟空は不思議そうな顔をしていた。
私は真相を知っているためにどんな顔をしていいのかわからずただ無表情に近い顔で悟浄を見つめていた。


「あれ?悟空どうしましたか?」
「んー…悟浄が見当たんなくてよお部屋にいるかなって」
「あぁ、なるほど…」
多分リビングで煙草をとは言えず言葉を濁した。
悟空が扉を開けるとぎっしりの布団が見えて、私は思わず苦笑いを浮かべながら部屋の前で立ち尽くす。
「あ・れ 沙悟浄はあ?」
その悟空の一言にこの布団には何もふれないのかと目線を悟空にやるとやっと気付いたらしく顔がひきつっている。
「あのオバサンがどうしても一晩泊まってけって 修学旅行じゃねえっつーの」
この世界にも修学旅行ってあるのか。
前のセカイで一度も行ったことはなかったけど…きっと楽しいんだろうな
少し自嘲気味な思考に思わずため息を漏らす。
前のセカイのことを考えると良いことなど1つも思い出せない。
いや、良いことなど1つも無かったの間違いか…
「…なー八戒 いい加減教えてよ
前っから悟浄が捜してる"ジエン"ってのは何者なんだ?」
その声が聞こえてそちらを見ると八戒が本をもって
「僕もおトイレお借りしますか」
三蔵にそう言っていた。
「ばっくれんなよッ
悟浄のこと知ってんのは一緒に暮らしてたお前だけじゃん」
「本人に直接聞けば…」
「絶対嫌」
「…だけど何か
俺何にもヒミツとかねーのにアイツにあるのってズルイじゃんか」
『ヒミツ』『ズルイ』その言葉がやけにはっきりと聞こえ、つきりと胸が痛んだ。
「…ガキ?」
「悪かったなガキでよ!!まだ未成年だもんよ」
「…ちょっと外の空気吸ってきます」
そう言って部屋を出た。
『俺何にもヒミツとかねーのにアイツにあるのってズルイじゃんか』
耳から離れないそこ言葉に頭を抱えて廊下でしゃがみこんでいると誰かに頭を撫でられる。
ゆっくりと頭をあげると三蔵がいた。
「そのうち話そうとしてんだろ?気持ちの整理がつくまで待つから安心しろ」
その言葉に私は頷いて一瞬三蔵に抱きつくと部屋とは反対に歩いていった。

今頃悟空は八戒に悟浄の過去について教えてもらっているのかな。
そう考えながら扉を開く。
「綺麗な月…」
外に出てから目に入った月にそう呟いた。
神々しく闇夜に輝く月に私はポロリと一つ涙を溢してから前のセカイで悲しいときに歌っていた歌をボソボソと歌う。
「〜〜♪」
そうだ。良いこと…1つだけあったんだ。
この歌を教えてくれた先生を思い出す。
『歌は言えない言葉やその人の感情をあらわしてくれるのよ。だから歌は素晴らしいの』
口癖のように言っていたその言葉はもう…聞けない。
ふと歌を止めてまた別の歌を歌いだした。


その歌声はまるで泣いているように悲しそうだった。
三蔵は静かになった室内で外から聞こえる歌声に耳を傾けていた。
儚くもどこか温もりの感じる歌は故郷の歌なのだろうか…
そう考えながら三蔵は夢を結んだのだった。



気付いたら一晩中外で歌を歌っていたらしく朝日が昇ってくるのが見え私は目を細めた。
一時間ほどすると旬麗が洗濯カゴを持って家から出てきた。
その顔は少し赤らんでいて瞬時にあぁ、悟浄が確か…と漫画を思いだし未だに寝ているであろう赤い河童を思い出す。

「あ、そうだ…このあと森に…」
そう思った直後、旬麗が洗濯カゴを落として走り出していく。
私はそれを追いかけた。

▼過去を思う

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