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「しょッ」 軽やかな声に私は耳を傾ける。 悟空の叫び声が聞こえ、またじゃんけんに負けたのだと理解した。 …確か彼は8戦連敗だったはずだ。 「おいっどこまで歩くんだよッ!」 荷物を引きずる音がして首だけそちらに向ける。 「真奈美もじゃんけんに参加しろよ!」 「ならこの大荷物悟空が運びますか?」 そういうと押し黙った。 現在私は金色の毛並みを持つ大虎に化けて大荷物を乗せて歩いている。 「こんな岩場じゃジープ通れませんからねェ…」 「お前さぁーっ真奈美みたくジープ以外には変身できねーのかよ白竜!!」 そう言ってジープを引っ張る悟空に苦笑いを浮かべる。 それよりも先程のことを大荷物という発言は聞かれていないだろうか…? 「…このままだと山越える前に日が暮れちまうな」 大荷物の発言は聞かれていなかったらしい。 ほっとするが大荷物もとい三蔵の台詞にげんなりする。 「一晩の宿をお借りしますか」 そういう八戒の見ているところは 「げ。ごたいそーな寺だなオイ」 「うわー…」 あの女人禁制の寺。 「すみませーん」 八戒が話し掛けている間に上に乗っている三蔵に声をかける。 「三蔵…お願いがあって私は三蔵のペットの虎ってことにしておいて!設定は三蔵が考えて良いから!」 「…別にいいが。…何でも良いんだな?」 「え、うん」 「そういえばお前口調が…」 そう三蔵が言いかけた途端 「なー腹減ったってば 三蔵っっ!!」 悟空が叫んできた。 するとそれに寺院の中に居た僧が反応した。 「しっ…失礼致しました!!今すぐお通ししますッ!!」 「へ?」 「……」 顔をしかめた三蔵を乗せながら寺院へと入っていった。 中は線香の匂いが立ち込めており鼻を摘まみたくなるほど臭い。 「これはまた広いですねェ」 その八戒の言葉に上を見上げると天井は高めにできており、一見広そうに感じる。
「こちらでございます」 そういわれて私は三蔵を背中から降ろすと隣に座った。 「これは三蔵法師殿この様な古寺にようこそおこし下さいました」 「…歓迎いたみいる」 すると私に視線が移る。 「素晴らしい毛並みの大虎ですね。そちらの虎は…「俺のものだ。俺の言う事しか聞かず、常にそばにいる」作用でございますか」 "俺の言うことしか聞かず、常にそばにいる"その三蔵の言葉に先程の発言を思い出す。 もしかしたらあの大荷物という言葉は聞こえていたのかもしれない。 私は思わず生唾を飲んだ。
「実は光明三蔵法師も十数年程前 この寺にお立ち寄り下さったのです。光明様の端正で荘厳なお姿が今も目に焼きついております。玄奘様は本当によく似ていらっしゃる」 バカだろ、そう言いそうになりあわてて開きかけた口を閉じる。 「光明三蔵様が亡くなられた後を愛弟子である貴方様が"玄奘三蔵"として継がれたと聞いておりますが」 「ーそんなことより。この石林を一日で越えるのは難儀ゆえ一夜の宿を借りたいのだが」 「ええ!それはもちろん喜んで! ーただ…」 ちらりと私を含め3人に目を向けられる。 あぁ…なるほど。この後の展開を思い出す。
「何か?」 「ここは神聖なる寺院内でして本来ならば部外者をお通しする訳には… そちらの御三方は仏道に帰依する方の様にはとても…それに虎は…」 「ざっけンなよ! 坊主は良くても一般人は入れられねーッてか?高級レストランかよここは!!」 イライラしている悟浄を八戒が宥める。 「俺は構わんが。ただこの虎は一緒に居させていただく。」 その言葉に尻尾をユルく振り三蔵にすりよった。 「えー!真奈美ずりぃ!!」 悟空の声が聞こえていないように無視をする。 「この方々はお弟子さんですか?」 「いや下僕だ」 きっぱりと言った三蔵に私は笑ったような顔をして悟空達を見ると鼻で笑う。 悟空と悟浄の"コロス"という言葉は恐らく私も含まれているだろうな、と思った。 「では今回は三蔵様に免じてそちらの方々にも最高のおもてなしを御用意いたします」 「こいつの飯は必要ない」 そう言ってポンポンと頭を軽く叩かれた。 まあ、寺院に虎の食べるものはない。 恐らく三蔵もそれを分かっているから言ったのだろう。 そう考えながらこの場を後にする三蔵についていった。
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