宿屋からあまり離れていない大きな木の上にいくと、元の姿に戻りまた泣いた。
呪縛のように残る心の傷はジクジクと痛みを持ち、さらに広がっているようにも思えた。

「おい」
下からの声にびくりとする。
「…っな、なんですか?」
「降りてこい」
有無も言わせぬ声の彼は木の下で待っており、私はゆっくりと木から降りてきた。
「えっと…あの、先程は…」
先程のことを謝ろうにも泣いていたせいもあるが上手く口が回らない。
すると、腕を引かれ抱き締められた。
「…ッ」
「泣きてぇ時は良いから泣け」
服から鉄の匂いと共に赤マルの仄かな匂いに私はしがみ付くと声をあげて泣いた。

「落ち着いたか」
数分後泣き止んだ私にそう話しかけられた。
それにしても"悲しくて"泣くなんて初めてかもしれない。
か細いがしっかりとした声で返事をすると三蔵はタバコを取りだし吸い始めた。
この匂いは何故か安心する…。
そう思いつつ私は隣に座ると三蔵によりかかって眠りに落ちた。
いつものように悪夢のせいで30分後に起きるだろうと考えて…


意識が浮上し起きると朝になっていた。
驚き辺りをみると最後にみた景色とは違い室内だった。
どういうことだろう、そもそも悪夢を見ていない…?
そう考えながらベッドから出ようとすると隣には三蔵が寝ていた。
「え…?」
混乱していると八戒が部屋に入ってきた。
思わず八戒を見るが彼も分からないようで苦笑いを浮かべている。
「八戒…昨日はごめんなさい。いつか話せるときが来るまで待って貰えませんか?」
過去の事をいつかは話さなくてならない。
そう決心すると頭を撫でられ
「無理に話そうとしなくていいですよ?」
その優しい言葉に涙をこぼす。
この世界に来てから"私自身"の感情がしっかりしてきたのかもしれない。
「ありがとうございます…」
そう呟くと八戒に抱きついた。



「もう行くのかね」
「ええ。長居するわけにもいきませんし」
「迷惑かけちまったな親父さん」
「大丈夫さ。さして損害もひどくはないしな」
「そういや真奈美は?」
そういえば見当たらない、と辺りを見渡すと遠くから走ってくる姿が見えた。
「真奈美ちゃんどうしたんだ?」
そう悟浄が尋ねると真奈美は親父さんの前に立った。
「多くはないですが工事の費用の一部にはなると思いますので受け取ってください」
そう言って真奈美は大きめの風呂敷包みを渡した。


朝見た部屋の中は昨日は暗くて分からなかったが床一面に宝石が散らばっていた。
それを先程、町に来たばかりに立ち寄った骨董品店に行ってお金に変えてもらった。

「こ、こんな大金受け取れないよ!?」
そう言われたがお父さんに渡す。
「本当なら全部修理すればいいんですが中に人がいると思ったんで諦めました」
本当なら人さえいなければ全部建て替えていたのだが…
そう思っていると
「…朋茗」
悟空の言葉にそちらに目を向ける。
「お弁当…作ったんです
あの…良かったら、皆さんで…」
「おう。さんきゅ!!」
「朋茗さん、あのとき言えなかったけど美味しかったです。ありがとう」
私はそういうと朋茗の手を取り小さめの包みを渡す。
「それ、お詫びです。お父さんには一応修理費を渡したんですがそれとは別に」
そういうと微笑みジープに乗る。
「あれ?三蔵の膝ですか?」
私は白兎に変化すると三蔵の膝で丸くなった。


「…私…あやまらなくちゃいけなかったのに…あんなにヒドイこといっぱい言って…!!」
「ありがとうもごめんなさいもあの弁当につめ込んだんだろ?大丈夫。ちゃんと伝わってるさ」
「うん…そういえばこれ、なんだろ」
お父さんと先ほど貰った包みを広げた。
「キレイッ…」
「こんなものまで…」
包みの中はキレイな装飾品だった。
細部までこだわり抜かれており良い物だと一目でわかる逸品。
「あの人、まるでカミサマみたい」
はにかんだような綺麗な笑みを思い出してそういうと、お父さんもその言葉に賛成とでも言うように頭を撫でてきた。


「絶品ですねェこの唐揚げ」
「唐揚げ!?私にも下さい!!」
一度は食べてみたかった家庭料理に思わず私は八戒に叫ぶ。
「真奈美…八戒ので最後だったわりぃ」
その言葉に絶句した。
「唐揚げ…食べたの誰です?」
黒いオーラを発しながら笑顔でそう言うと悟空と悟浄がおずおずと手をあげた。
「…!! "悟空、悟浄は猿!"」
そう叫んで三蔵の膝でいじけていた。
「食べ物の恨みは恐ろしいですねェ」
「お前は運転してるから変えられてないだけだと思うからな…真奈美何か食べるか?」
「…卵焼き食べたい!」
家庭料理No.1であるそれを頼むと美味しく食べた。

▼進む

| top |

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -