ピッ
刃が手首を切る。
刃が肉に入り込んだ瞬間刃の冷たい感覚と生暖かい血液が溢れる感覚におそわれる。
傷口に唇を当てて流れる血を飲む。
痛くない。
水で傷口を洗う。
ピリリと痛い。
気持ちいいような気持ち悪いような矛盾する心は頭を麻痺させる。
しばらく放っておくと頭がくらくらしてきた。
「シャチ…何やってんだ」
「あ、ペンギン」
俺と傷口を交互に見てため息をつく。
「またか…」
またって酷いなぁ
「冬場は傷口がジクジク疼いて痛いんだよ?」
「知るか」
素っ気ない返事に俺は微笑んだ







俺がシャチの自傷行為を知ったのはつい最近の事だった。
夜中に一人で出歩くのが多くて後を付けるとついた先は風呂だった。
風呂には先ほど入っていたように思えたが何故再び?
何となくいやな予感がしてドアを開けた。
そこで見たのは血を流したシャチだった。

バチッとシャチと目があった。
が、俺を虚ろな目で見るとへにゃりとわらってナイフを自分の手首に滑らす。
「おい、なにしてんだ」
「…今、幸せなんだ」
意味不明なことをいって次はナイフを太ももに滑らす。
見ていてこちらが痛くなる。思わず顔をしかめて目をそらす。
「でも幸せって不幸せがあるからこその幸せなんだ。だから、」
グサッ
イヤな音がして見るとシャチは首の後ろにナイフを刺した。
ヤバい、そう思うより早くシャチは倒れた。
ローを呼び急いで治療をした。
一命は取り留めた。
があちこちに傷口があり痛々しく感じる。
「ロー…シャチは」
「精神疾患か何かだろ」
あまりにも素っ気ない言葉にローに掴みかかる。
が、気づけなかった自分も何故だか同罪な気がしてローを離す。

数日もするとシャチはいつものような明るく元気な姿になっていた。
が、俺は暗い。
あまりにも衝撃的すぎて正直な話シャチが怖かった。
「ペンギン?」
「っ?!…な、んだ?」
ぼーっとしていたからであろう。
シャチの存在に気づけなかった。
見れば悲しそうな顔をしている。
「ペンギン…俺のせい?」
突如言われた意味不明な言葉に頭を働かせる。
「シャチ…ちょっと来い。」
いいたい言葉は見つかったが周りに聞かれたくないから俺の部屋に案内する。

「シャチ…お前は幸せか?」
そう言ってシャチの反応を見ると一瞬だけ目が泳いだ。
「言い方を変えよう。シャチ、自傷行為をして幸せか?」
「幸せじゃない…でも幸せになりたいからする」
返す言葉を忘れてシャチを見つめる。
「なら、その行為で周りが不幸せになっても幸せになりたいか?」
この言葉は事実だ。
そして『イヤだ』この言葉が欲しかった。
が、シャチの答えは『うん』という肯定の言葉だった。
幸せの為なら周りの不幸もいとわない。
海賊らしい言葉だったが俺にとっては最悪な言葉に等しかった。

それから数日がたった。
あれ以来シャチと会わないようにしていた。
無論、自分の幸せの為に。

風呂に入ろう…
そう思って一番最後の風呂に入ろうとドアをあけると
「シャチ…何やってんだ」
「あ、ペンギン」
会いたくない奴がいた。
手首には赤い液体。
フラッシュバックのようにあの日の光景が脳裏に映る。
「またか…」
「冬場は傷口が疼いて痛いんだよ?」
意味不明な言葉に思わず
『知るかそんなこと。』
そう悪態つきたかったがシャチの顔は悲しそうな顔だった。
「知るか」
つい出てきた言葉は素っ気なかったがシャチは微笑んだ。
綺麗にゆっくりと。まるで……いや、なんでもない。
自分の考えた言葉を消し去る。
「ペンギン。俺ね、今不幸せなんだ」
また訳の分からない文脈で話し始めたシャチ。
「幸せが俺から逃げてくんだ。なあ、俺どうしたらいいと思う?」
泣き出しそうな声の癖に顔は笑顔。
なあ、シャチお前は何で笑顔なんだ?
「ペンギン…もし死んだら幸せになれるかな?ペンギンは俺が死んだらどう思う?」
「困る…お前が死んだらどうすんだ?みんな悲しむぞ」
優しい口調でそう伝える。
が、
「みんな?俺はペンギンに聞いたんだよ?なのにみんな?意味わかんない!」
分からないのはこっちだ。
いきなりヒステリックになったシャチが持っているナイフで喉を刺そうとするから慌てて取り上げる。
「ペンギン!なにすんだよ!」
抗議の声がうるさく思わずため息をついてしまった。
ヤバい。
そう思ったのは後の祭りでシャチはヒステリックに泣き叫び俺はどうしていいのだか分からずとりあえず宥める。

「シャチ…」
あやすように抱きしめれば動きが止まる。
「ペンギン…好き、好きだよ」
今にも死にそうな弱々しい告白に言葉を失った。
俺は男だ。勿論シャチも男だ。
なのに告白をされた。
どうすればいいのだろうか?
「…やっぱ俺が男だからイヤ?」
的確な言葉に体がこわばっる。
「そ、んなことはない…」
なんとか発した言葉は弱々しく震えていて肯定しているようだった。

「俺の幸せはね、船長とペンギンと笑顔で楽しくしていることなんだ。だから死んで?」
最近ペンギンは笑ってないから、そう語るシャチに唖然とする。
「シャチ、おかしくないか?」
確かに笑えていない。
が、死んでとは身勝手じゃないか?
「あ、分かった俺も死ねばいいんか。」
ついに頭が痛くなる。
ヒステリックになって、告白して、死ねといわれて、一緒に死のう…シャチの頭についていけない。


「シャチ。ペンギン。」
この声は…
「船長」
「ロー」
後ろを見ればローがいた。
「話は聞いた」
そう言って俺たちに近づいてくる。
良かったのかは分からないがなんとかなりそうな雰囲気に少しホッとする。
「room」
ホッとした直後のこれには思わず目を見開く。

そこからは記憶が曖昧で何があったか分からないがそれ以来シャチは自傷行為をやめた。
「ペンギン…何やってんの」
「あ、シャチ」
シャチが風呂に入ってきたので手を止める。
「また…?」
「冬場は傷口がジクジク疼いて痛いんだ」
そう言って俺は血まみれのナイフを笑いながら手首に滑らせた。

▼終わり無きダルセーニョ

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