門の前には、三部隊の刀剣男士がずらりと集結していた。
彼らの前に立ち、真澄は改めて「救援に向かう」と告げた。

「さっきも言った通り、あたし達はこれから他本丸への救援に向かう。敵の数は分からない。もしかしたら少ないかもしれないし、予想よりも多いかもしれない。下手すりゃ今もぞろぞろ湧いてる可能性だってある。
 ――しっかり用心して挑んでくれ、としか、今のあたしには言えない」

言いながら、自分の持つ情報の少なさに嫌気がさす。
戦況も見えない戦場に彼らを放り出すなんて、主としてどうなのだろうか。
そんな暗い影が心にさしかけるが、今はそんな主でもついて来てくれている彼らを信じよう。
きっと彼らなら、切り抜けてくれるはずだ。

「細かい指示は、向こうの戦況を把握次第あちらで行う。着いてすぐに戦闘もあり得る……行くぞ!」

こんのすけが、本丸へと繋がるゲートを開く。
お気をつけ下さい、という言葉を背に受けながら、真澄と刀剣男士たちは激戦区へと飛び込んだ。


瞬間。
目の前に光る刃が迫っていた。

「っ、な」
「下がってろ!」

状況を飲み込むより早く、強い力で後ろに引かれる。それと同時に、刀同士のぶつかる鋭い金属音が響き渡った。
咄嗟のことで自由の利かない体はそのまま後ろに倒れかけるが、後ろに控えていた御手杵に支えられて転倒を免れたようだ。

黒衣がぶわりとはためいて、視界を覆い尽くす。
ギチギチと鍔迫り合いで敵打刀の刀を防いでいるのは、同田貫だ。
金の目がちらりとこちらに向けられたかと思えば、にたりと馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「何かっこつけて先陣切ってんだよ。戦えもしねぇのにさあ」
「うるさいたぬき!」
「だから、たぬきじゃねえって言ってんだろ!」

その言葉と共に、敵は押し返される。バランスを崩したまま持ち直せず、敵は斬り伏せられた。

「正国の言う通りだよなあ。あ、もしかして本当は戦えたり」
「しねえよ馬鹿……」

自分を受け止めてくれたのはありがたいが、笑顔でさらりと傷をえぐるのはやめてほしい。
御手杵の悪意の無い一言に、悲しいやら恥ずかしいやらで溜息が漏れる。
刀剣男士に気をつけろと言っておきながら、自分が早速切り掛かられていては情けないことこの上ない。

「主様、怪我はないですか?」
「平気平気。たぬきとぎねのおかげで無傷」
「おい同田貫、主への扱いが雑すぎるぞ!」
「んだよ、だったらあんたが自慢の機動でさっさと助けりゃ良かっただろうが」
「喧嘩すんな、そこ! ……っ、と?」

心配そうにこちらに駆け寄る五虎退の頭を撫でていれば、長谷部と同田貫のくだらない言い合いが始まる。
こんな場所でも喧嘩を始める姿にがっくりと脱力していれば、不意に頭に声が届いた。

『貴方は……! 救援、ありがとうございます』
「遅くなってすみません。戦況はどうなっていますか」

真澄の言葉に、ここの審神者から連絡があったと刀剣男士たちも気付いたのだろう。
先ほどまで緩みかけていた空気が、ピンと張りつめる。
周囲を警戒するように自分を囲んでくれる彼らを信じて、真澄は意識を集中させようと瞼を閉じた。

『あまり、良いとは。何とか持ちこたえてはいますが、劣勢に変わりはありません。
 今は加州清光が西、鶴丸国永が東にそれぞれ遊撃隊として向かっています。各地点に二名ずつ刀剣男士を配置していますが、彼らもずっと戦っているので疲労が見られ始めています。
 私は他の刀剣男士と共に手入れ部屋で待機していますが、いつここも突破されるか……』

ここに敵の姿が見えないのは、敵が全てその刀剣男士たちに集中しているということか。
次いで、頭にぼんやりと地図のようなものが浮かんで来た。
なんだか妙な感覚にむず痒さを感じていれば、「ここの本丸のマップです」という声が聞こえた。

「ん、間取りはあたしらの本丸とほぼ一致してる。この赤いエリアが、手入れ部屋で合ってますか?」
『はい。――本丸が統一された作りで良かった、説明がしやすくて助かります。それと、……これが前線で戦闘を行っている刀剣男士たちの現在地です』

ぽう、と本丸のいたるところに小さな光が灯る。
その中に二つ赤い光を見つけた。西と東に一つずつあることから、きっとこれが加州と鶴丸を表しているのだろう。

「分かりました、ありがとうございます。これからあたしも手入れ部屋に向かいます。まずは合流を。同時に、こちらの刀剣男士をそれぞれの援護に向かわせます」
『お願いします。どうか、ご無事で』

ぷつり。
繋がっていた糸が切れるような感覚と共に、彼女との連絡が途絶えた。

「よし、指示を出す」

目を開ける。改めて景色を見れば、ここでも激しい戦闘が行われただろうというのがすぐに分かった。
土にしみ込んだ血が誰のものか、出来れば刀剣男士のものではない事を祈りながら、真澄は言葉を続けた。

「この本丸の作りはうちとほぼ一緒だ、だから迷うことはないだろう。心配せず好きに暴れてくれていい。
 戦況は言わずもがな不利だな。加州清光と鶴丸国永を筆頭に、二名ずつのペアで戦闘中だそうだ。審神者は手入れ部屋で待機。刀剣男士が防衛中だが、いつまで保つか分からない。
 手早く敵を片付けるぞ、あんたらの力なら朝飯前だろ?」

なんせあたしの自慢の刀なんだ。
その言葉は、上手く彼らの士気を高めることが出来ただろうか? ふわりと舞う花弁を見て、真澄は笑う。



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