△月○日

三日月宗近。
刀剣男士の中でもレア枠として名高い、平安生まれの太刀である。
見目麗しいその姿から、その刀を求める者も少なくはない。
もちろん持っていることで、審神者としての力の証明にもなる。

そんな三日月宗近を、審神者もいつかは手に入れたいものだと思っていた。

とはいえ、今は本丸を軌道に乗せることで精一杯なのが現状である。
確率の低いものを求めるよりも、まずは戦力拡大が先決だ。

ようやく太刀が集まり始めたとはいえ、その本数はわずか五振りのみだ。
成果があがれば、政府はより強力な敵のいる時代へと送り込もうとしてくるだろう。
刀剣男士たちはよく頑張ってくれているが、ここから先の時代では短刀や脇差の力が通用するか、やや怪しい部分がある。
その不安を払拭するためにも、出来れば太刀以上の戦力がほしい。

そんな審神者の元に、一つの情報が入って来た。

「いやあ、他所の審神者さんは面白い考えするよねえ」
「しょうまっことのう」

端末の小さな液晶画面を陸奥守と覗き込みながら、審神者は指を画面に滑らせる。

ふらりと、審神者同士の情報交換が行われるサイトを覗いたのが始まりだった。

そこに書き込まれていたのは、とある審神者が三日月宗近を鍛刀で呼び出したという内容だった。
喜びに満ちた報告の中には、鍛刀時の資材の分量、いわゆるレシピも記載されていた。

ALL441レシピ、というのか。

三日月宗近の言動から、彼は愛称として「じじい」と呼ばれていた。
どうやらこのレシピは三日月のために発案されたレシピらしく、資材量の441というのも、じじい呼びから由来しているという。

報告をした審神者に続いて、同じレシピを試した審神者の報告も続々と上がり始めた。

驚く事に、ALL441レシピは効果があったようだ。
最初の審神者と同様に、喜びに包まれた報告がちらほらと見られる。
当然その中には、今回は無理だったという声も上がっていた。

――しかし、物は試しというではないか。

「陸奥や陸奥や、たしか資材は一万ほど余裕があったよね?」
「主まさか……!」
「そのまさかだよ! いくぞ鍛刀!」
「おまさんならやると思ってちゅうよ!」

勢いそのままに鍛錬所へ飛び出す審神者に、陸奥守はノリよくついていく。

二回だけ、それ以上は挑戦しない。
たとえ三日月宗近が来なかったとしても、まだ見ぬ新しい刀剣男士に出会える可能性もある。
どうせまだ、政府からノルマとして出されている鍛刀回数もこなしていないのだ。

「いっちょ勝負といきますか!!」
「おう!!」

陸奥守と目を輝かせながら、依頼札を二枚、鍛錬所にいる刀匠(審神者いわく妖精さん)に託す。
資材もレシピと同じ各441ずつ渡し、いざ。

「どうだ……!?」

壁にかけられた、鍛刀時間を表す札に数字が表示される。

「ああ、駄目じゃ……」

一番上の札に、ぽんっと1:30という数字が表示される。
三日月宗近の鍛刀時間は四時間。あそこに表示されるべきは4:00でなければいけない。

いいや、まだ諦めるには早い。

そう、審神者が刀匠に依頼したのはもう一つある……!

審神者と陸奥守が、固唾を飲んで数字を見つめる。
二つ目の札の表示画面が光り、同じようにぽんっと数字が現れた。

「う、うわ、陸奥あれ、えっ嘘」
「はあ〜……こりゃあたまげた……!」

表示されたのは4:00。
間違いない、と確信した瞬間、喜びと驚愕と焦りが入り交じった感情がこみ上げて来た。

「みっ、三日月宗近だー!!! て、手伝い札! 手伝い札どこだっけ!?」
「おおお落ち着きーや! 手伝い札ならここにあるがで!」
「ありがとう! はい妖精さん! 頼んだ!」

慌てて震える手で手伝い札を握りしめ、刀匠へ差し出す。

「って、あああまって! まだ心の準備出来てない、どうしよう陸奥!?」
「わしだって準備できてやーせん!」
「ええ、どうしよう本当……っ!」

慌てふためく審神者と近侍を残し、刀匠は手伝い札を受け取り刀を完成させてしまう。
ふわりと桜が舞い、視界はすぐに桜色に埋め尽くされた。

「三日月宗近。打ち除けが多い故、三日月と呼ばれる。よろしくたのむ」

ゆったりとした、柔らかい声音はそう名前を告げた。
青みがかった黒髪がさらりと揺れて、整った顔が見惚れるような笑みをこぼす。

「そちらは主か?」
「そつ、そそう、そうです主です!! えっ、み、三日月……?」
「ああ、三日月宗近だ」

夢か? 本当は今自分は書類作業の途中で居眠りしてしまって、こんな夢を見ているだけ、とか。
ちらりと横目で陸奥守に問いかける。
答えは頬をつねることで返ってきた。痛い。夢じゃない!

「うわあああやったよ陸奥! 私でもレア刀剣喚べたよ!!!」

この時の審神者は、まだ知らない。

この先、自分が槍と薙刀の入手に頭を悩ませることを。
小狐丸と厚藤四郎の入手に嘆くことを。
新たに発見された刀剣男士の入手に、ことごとく崩れ落ちることを。

レア刀剣男士と呼ばれる刀剣が、三日月宗近以外にも存在していることを。

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