○月○日

本丸の運営にも慣れ、じわじわと刀剣男士も増えてきた頃。

初心者本丸にも、新たにへし切長谷部という打刀が鍛刀された。
さらにありがたいことに、山伏国広という太刀まで鍛刀されたことで、本丸の出陣は以前よりも格段に楽になってきていた。

本丸も賑やかになり、刀帳もやっと埋まってきたのだと、実感が湧き始めた頃。

「脇差?」

こんのすけから聞かされた聞き慣れない刀の名称に、審神者は目を瞬いた。

「はい。そういえば、この本丸には未だに脇差が一振りもいないのだと思いまして」
「ああ、演練とかで見かけはするけど・・・・・・そういえばいないね」

たしか今は四振り確認されているんだったか。
そのうち二振りは、粟田口の刀だと聞く。
きっと本丸内の同刀派の短刀たちも、首を長くして待っているだろう。

「打刀と太刀は少しずつ集まり始めてるのにねぇ」

そう言って、ぺらりと刀帳を開いて眺める。
埋まってきたとはいえ、まだまだ空欄だらけのそれを眺めて本丸にいる刀剣たちを改めて再確認する。
やはりそこに脇差は一振りもなく、並んでいるのは短刀と打刀と太刀のみだ。
そういえば槍や薙刀、大太刀なんかもまだ来ていないなと気がついた。

「この槍とか薙刀って、なかなか手に入り辛いものなの?」
「そうですね、比較的手には入り辛いかと」
「大太刀も?」
「かもしれませんね」

まあ頑張ってください、と他人事のようにいうこんのすけを、抗議の意を込めて全力でモフモフとなで回してやる。

やめてください! やら抵抗する声が聞こえた気がしたが無視だ。
ここはやはり鍛刀か? そう悩んでいれば、執務室にだんだんと近づいてくる足音が聞こえた。

「おう、戻ったぜ」
「ありゃ、おかえりたぬき」
「たぬきじゃねぇっての」

パンと襖が開かれ顔を覗かせたのは、山伏の次にやってきた太刀の同田貫正国だった。
今回は練度上げも兼ねて隊長を任せていたので、出陣の報告にやってきたのだろう。
すっかり浸透してしまった呼び名を否定しながら、同田貫は審神者の前にどっかりと座り込んだ。

「お疲れさまでした。怪我は?」
「愛染が軽傷ってとこだな、それ以外は問題ねぇよ。手入れ部屋で待ってるだろうから、早めに行ってやりな。
 それと、敵大将は討ち取った。そろそろ次の場所に行っても良いんじゃねーの」
「分かった、ありがと。初めての隊長はどうだった?」
「指揮すんのはめんどくせぇな」
「あはは、そっか。まあこれも良い体験ということで! これからも隊長頼む事が増えると思うから、よろしくね」

まっすぐ突っ込んでいく彼からすれば、隊長というのは少々骨が折れたようだ。
しかし報告された戦績からしても、彼の指揮は悪くはないのだろう。
また頼むと告げれば微妙な表情を浮かべていたが、本気で嫌がっているわけではなさそうだ。

「あー、忘れてたけど、こいつら呼んでやれ」
「うん?」

ガシャガシャと目の前に並べられたのは、見た事のない刀剣たちだった。
床に並べられた二振りを見て、すっかり毛がボサボサになってしまったこんのすけが「脇差ですね!」と尻尾を揺らした。

「え、これが? わー丁度欲しいなって話してたんだよー! やるじゃんたぬき!!」
「だからたぬきじゃねえ!」

――律儀に名前を訂正してくるあたり良い奴だと思う。

予想外のタイミングでの、求めていた刀剣の入手に思わず心が躍る。

「よしよし、おいでませ刀剣男士様〜」

ぽんっ、と軽い音と共に、視界を桜の花びらが覆い隠す。花びらの幕が晴れるころには、二人の少年が並んでいた。
一人は黒い髪、活発そうな丸い瞳が印象的な少年。
もう一人は黒髪の少年と近い外見をしているが、白い髪色で纏う雰囲気はどこか儚げなものだった。

「俺の名前は鯰尾藤四郎」
「骨喰藤四郎」

藤四郎。
ということは、彼らが粟田口の脇差兄弟らしい。
なるほど、外見が似ているのも納得出来た。

「この本丸の審神者です、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!
 あ、俺ら焼けちゃったせいで少し記憶ないんですけど、まあきっと何とかなると思うんで!」
「記憶がなくても、何とかなる」
「えっ、焼け……? 記憶がない?」
「何とかなると思うんで!!」

握手を交わしつつ挨拶していれば、何やらとんでもない爆弾を落とされた気がする。
焼けただの記憶がないだの、そんな笑顔でさらりと流していいのか、一体。
困惑していれば、さらに笑顔で言葉を繰り返された。

「また手がかかりそうな奴が増えたな」

少し離れた場所から同田貫の呟きが聞こえた。

何はともあれ、新たな仲間の加入は喜ばしいことだ。
これで脇差も残るは二振り。……大太刀や槍や薙刀は、おいおい縁があればきっと出会えるだろう。


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