○月×日

「戻ったぜよー!」
「主ー! 新入り連れてきたぜー!」
「おかえり!」

――主。そんな慣れない呼び名で呼ばれるようになって、早くも二日が経過していた。

何やらよく分からないままに政府から説明を受け、審神者と呼ばれる職について、突然刀を一振り選べと言われて。
すべて曖昧なまま話は流れていき、気がつけば審神者の元には二振りの刀が揃っていた。

一つは、五本ある中から選べと言われて選んだ刀。
打刀という刀種らしいそれは、「陸奥守吉行」という名前なのそうだ。
元の主があの坂本龍馬だというが、その特徴を色濃く引き継いでいるような刀だった。

もう一つは、「愛染国俊」という短刀だ。
元気というのを体現したら、きっとこうなるのだろうか。
そのくらい活発で、陸奥守と一緒になって騒いでいる姿は見ていて気持ちがいい。

そんな彼らが、先ほど出陣から帰還した。
明るい声音からして大きな怪我はしていないのだろうが、前回の出陣後に見た陸奥守の姿が忘れられず、慌てて二振りの元へと駆け寄る。
門の傍で一人そわそわと帰還を待っていたのがバレたのか、二振りには苦笑されてしまった。

「お疲れさま。怪我は?」
「わしも愛染も無傷じゃ。心配しすぎちや」
「いや、そりゃいきなりボロボロに帰って来られたらトラウマにもなるって……」
「大丈夫だって、オレらすぐに強くなってやるからさ! そんな心配事すぐに吹き飛ばしてやるよ!」

にかっと笑う二振りに、力が抜ける。呆れるというよりも、安堵での脱力だ。
彼らならきっとあっという間に強くなって、本当に心配なんて不要になるのだろう。
互いの中に少しずつ出来上がり始めた信頼を感じて、審神者も小さく笑った。

さて、ここで本題である。

「そういえば、新入りがいるとか言ってなかった?」

帰還してきた時に聞こえた言葉を思い出し、審神者は愛染を見る。
それに「おう」と返事を返し、愛染は一振りの刀を審神者に差し出した。

両手に乗せられたのは、愛染と同じ短刀だった。

「おお……短刀だ……」
「早速呼び出してみようぜ」
「そうじゃな。どがな奴か気になるのぉ!」
「よし、やってみる」

ぐ、と手元の刀に意識を集中させる。
おいでおいで、と念じれば、ぶわっと桜の花びらが舞い散る。

ひらひらと淡いピンク色の中、ちらりと視界に映ったのは青色だった。

「僕は小夜左文字」

子供の声、しかし愛染の明るさがにじみ出るものとは正反対の、妙に落ち着いた声が、その刀の名前を名乗る。
小さく細い体にそぐわず、背には大きな笠が存在を主張していた。
伏せられていた鋭いまなざしが、すっと審神者に向けられる。

「あなたは……誰かに復讐を望むのか……?」
「ふ、復讐?」

突然何を言い出すのだろう、この刀は。
子供の口から告げられたやけに物騒な単語に、思わず聞き返すしかできなかった。

「ええと、あー今のところは特にないかなあ……?」
「……そう」

困惑しつつも答えれば、小夜左文字という刀はふうと息を吐いた。

「ほがな暗い顔をせんと、しゃんと顔を上げとうせ!」
「ほら、オレが本丸の案内してやるよ! 行こうぜ!」
「えっ……」

そっと顔を伏せる小夜の頭を、陸奥守が豪快にわしゃわしゃと撫で回す。
それに次いで、今度は愛染が小夜の手を引っ張って歩き出した。

「ああいう性格の子もいるんだね、刀剣男士って」

愛染と小夜の背中を見送りつつ思わず呟けば、陸奥守が「そうじゃな」と相づちをうつ。

「わしら刀にも、それぞれ過去がある。性格にゃ、どうしたち影響が出るろうな」
「なるほどね。陸奥と国俊が明るいから、ちょっと驚いちゃった」

小夜のことは少し心配だが、陸奥守たちに任せておけば、きっと良い方向に向かってくれるだろう。
自分も出来る限り彼らのサポートをして、良い主になれるよう精進しなければ。
いつか小夜が笑顔を向けてくれるくらいの審神者になろう!

そう決意し、審神者の一日はまた過ぎてゆくのだった。

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