御手杵

真っ白で何もない部屋。
聞こえるのは自分と近侍である御手杵の呼吸音だけで、存在する物も自分達以外に何もなかった。

いや、ただ一つだけ、床に無造作に置かれた紙が一枚存在していた。

「ぎね」

いつも呼んでいるように御手杵のことを呼べば、彼はやや警戒した面持ちで真澄の傍に来る。

「何か見つけたのか」
「ん。つっても、まあただの紙なんだけど」

真澄が床を指差せば、御手杵の視線もそれを追うように降りて行く。
二人の視線の先には、部屋と同じように真っ白な紙が落ちていた。
それを拾おうとした真澄の手を、御手杵が「俺が拾うから」と制した。

何かあったら危険だから、ということだろう。相変わらずの過保護さである。

ぺらりと持ち上げると、裏側に何か文字が書いてある事に気付く。

「なんて書いてある?」

紙を覗き込もうにも、真澄と御手杵には身長差がありすぎて不可能だった。
諦めて内容を尋ねると、彼はなんとも言えないような表情を浮かべた。

「ぎね?」
「あー、ええと、“脱出条件は相手のことを好きになること。制限時間は120分以内”、だと」
「相手のことを好きになるぅ?」

紙を受け取って自分でも文章に目を通してみるが、内容は読まれたものと同じだった。

好きになる、か。
と真澄は腕を組んで眉根を寄せた。

「これどうすればクリアだと思う?」
「俺に聞かれてもな」
「だーよなあ。つーかそもそも、この条件があたしらにゃあ合わないもんだ。
 だってあたしは既にぎねが好きだし? 今更じゃねぇの、こんなの」
「なっ……」

ひらひらと紙を振りながら隣を見れば、そこには顔を赤くした御手杵がいた。
こいつ、照れてやがる。可愛い。

「あたしは本丸のやつら全員大好きだし、ほんっと今更だわ、これ」

なあ? と同意を求めたのだが、彼は目を丸くして固まった。

「ぜ、全員?」
「全員。もちろんぎねもな。つーか、自分の本丸の奴らを嫌いな審神者なんていねーだろ」
「俺だけ、とかじゃなくて?」
「? そりゃぎねは近侍もしてくれるし、一軍で頑張ってくれてるから特別っちゃあ特別だけど。家族だし好きなのは当然なことだろ?」

そうか、全員か、家族か……どうせそうだろうと思ってた。知ってた。
そうブツブツと隣で項垂れて呟く御手杵に、真澄はただ首を傾げるしか出来なかった。

自分は何か落ち込ませるような事を言ってしまったのだろうか。

よく分からない。

「それで、あたしはあんたが好きだけど、ぎねは?」

脱出するためには、宣言でもすればいいのだろう。
とりあえず好きだという気持ちを口にすればクリア出来るはずだ。

ほれ、と袖を引いてやれば、御手杵は小さく呻いたあと

「俺も勿論好きだよ。…………主だしな!!」

ともごもご宣言した。
なぜ最期の主の部分を強調したのかは謎だが、遠くからガコンという音が聞こえたので、その疑問もすぐに打ち消された。

「おっ、んなとこにドアあったんだな。じゃあクリアしたみたいだし出るぞ、ぎね」
「あんた良い奴だけど、たまにすっごい残酷だよなあ……」

意気揚揚と歩いて行く真澄の後ろを、御手杵は大きな溜息をつきながら追いかけるのだった。



(御手杵と審神者は『相手のことを好きにならないと出られない部屋』に入ってしまいました。
120分以内に実行してください。)


同田貫正国 >>

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