仕方ないから
もしも世界が終わるなら。
という話は、誰でも一度はした事があるんじゃないだろうか。
のんびりとした本丸での時間を過ごしながら、私はふとその事について考えていた。
「あー、あたし世界が終わるとしたらさ、世界が終わるより前にあんたに首落とされたいわ」
「はあ?」
ごろごろと寝転がりながら言えば、隣で座っていた同田貫に妙な顔をして見下ろされた。
なんだ、そんな顔しなくても良いじゃないか。
「だって考えてもみてよ。どこの誰だか分かりもしない奴に殺されるよりもさ、親しい奴に殺される方が絶対いいじゃん」
でしょ? と同意を求めるも、彼は相変わらず妙な顔をしたまま首を傾げた。
ああそうだ、こいつらに同意を求めても無駄だった。
だって彼らは“刀”だ。人を斬る為のものだ。
誰に殺されたら、とか、誰を殺したら、とかいう考えはないんだった。
「で、急になんでそんな事言い出したんだよ」
「べっつにー? ただ何となく浮かんだだけ。
終わる前に終わりたいなって思って、真っ先にあんたが浮かんだから言っただけだよ」
正直に言えば、同田貫が固まった。ほんの一瞬だけだけど。
どうせ「くっだらねえ」とか思ったんだろうよ。
「――まあ、俺らは元々その為に作られたしな」
はあ、と重いため息を吐きながら奴が言う。
「仕方ねえから、その時には俺が望み通りあんたの首を落としてやるよ」
「……ほぉー」
「んだよ」
「いやぁ、まさか承諾してくれるとは思わなくて。戦でもねえのにーとか言うのかと」
意外だねえ、と言えば、口を尖らせて「それじゃ俺が戦馬鹿みてぇじゃねえか」とぼやいてきた。
実際そうだろうよ、あんたは。
とは思ったが、それは心の中だけにとどめておく。
「じゃあ、まあ切れ味に期待でもしときますかね」
「あんたがちゃんと手入れしてくれりゃあ、なまくら刀にはならねぇよ。
その時がくるまで、俺を大事にしてくれよ、主様?」
にやり、と笑いながら言って来た「主様」に、思わず吹き出してしまう。
「あんたが主様って呼ぶ柄かよ!
ああ、でもまあ、そこまで言うなら仕方ないから大事に傍に置いてあげる」
満足でしょ? と表情で言えば、奴も同じように吹き出した。
仕方ないから、その世界が終わる時とやらが来るまで、一緒にいてやろうじゃないか。
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