つきのもの

背中には固い畳の感触。目の前にはこの世のものとは思えないほどの美しく整った顔。
自分の顔の横には彼の両手がつかれていて、逃げ出すのは不可能だとすぐに分かる。

一体何故、こうなったのか。

「真澄」

ぞっとするほど甘い声で、知られてしまった真名を呼ばれる。
頬を撫でる指に喉をひくつかせて、瞳に揺れる三日月を見つめた。

「……なんであたしなんだ」
「うん?」
「あたしじゃあんたには釣り合わないだろう。綺麗でも、可愛くもない」

むしろ、彼に釣り合うほどの美しい女性なんて、滅多にお目にかかれないだろうけれど。
そう思いながら、真澄は目をそらす。
上からくすくすと笑う気配を感じて、かすかに眉間にしわを寄せた。

「そうだな、確かに主では釣り合わんだろうなあ」
「見た目じゃないならどこに惚れたって言うんだ……霊力? そんな上質なものでもないと思うんだが」
「霊力も、そうだな。並程度といったところか」
「ますます分からん……」

はあ、と溜息もつきたくなるものだ。
見た目も、霊力も、さらっと否定されてしまった。
いくら自分で言ったとはいえ流石に傷つく。しかも相手が惚れた要素がますます分からなくなった。

「それでも、お前が欲しいと思ったから、こうしているんだが。
 必死になって真名まで探して、な」

女らしくもない、可愛くも綺麗でもない。審神者としての力もごく普通。
三日月宗近を鍛刀できたのは、運が良かったとしか言えない。
そんな自分にこうも執着するとは、神様というのは本当に理解できない存在だ。

「主……真澄。愛している。だからどうか、俺に隠されてくれ。
 俺だけを見て、俺だけの名を呼んで、俺だけが触れられるように」

嫌だと拒んでも、聞く気などないくせに。
ぐらりと揺れて歪む視界に、優しい笑みを浮かべる男の姿を映しながら目を閉じる。

(でもまあ、こういう終わりも、悪くないかもな)

沈む意識のすみで、そう思えた。

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