味見

「ただいまー!」

現世への里帰りを終えて、本丸に帰ってきた。
たった二日ほど開けていただけなのに、懐かしく感じるのはなぜだろう。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら言えば、ぱたぱたと短刀たちが駆けてくるのが見えた。

「おかえりなさい!」
「会えなくて寂しかったんだよ〜!」
「あはは、ごめんね。今日からはまた本丸にいるから」

ぎゅうぎゅうと抱きついてくる短刀たちにそう告げながら、頭を撫でる。
ついでに土産を手渡せば、それぞれ兄に見せてくる! と元気よく走り出した。
その背中を見送りながら、真澄も玄関へ向かう。

部屋へ戻る途中、刀剣男士たちと顔を会わせては「ただいま」「おかえり」を繰り返す。
そのことに和みながら歩いていると、目の前を歩く長身を発見した。

「御手杵くん」
「んあ? なんだあんたか。おかえり、いつの間に帰ってきてたんだ?」
「ただいま。さっき戻ったばかりだよ」

お土産があるよ、と言えば、御手杵は目を輝かせながら真澄の後ろをついて歩いた。

「土産ってなんだ?」
「お菓子だよ。ほら、前にクッキー作ったら好評だったからさ、クッキー買ってきたんだ」
「クッキーか!」

部屋について、どさりと持っていた荷物をおろしながら話していれば、後ろの気配がそわそわとしているのが伝わってきた。
さっきの短刀たちも同じ表情をしていたなあと思いながら手渡せば、へにゃりとした笑顔が返ってくる。
うちの刀剣男士はクッキーが好物なのだろうか。
それなら今度はケーキでも、と考えて、現世で食べて来たケーキの味を思い出した。

「あのケーキ美味しかったなー」
「けえき、って短刀とか厨連中が話してた食い物か」
「そうそう。向こうに戻ったときに食べたんだけどね、すごく甘くて美味しかったんだ」

生クリームの甘さも程よくて、生地もふんわり、フルーツものっていて見た目も可愛い。
どれをとっても最高のケーキだった。
話しているうちに興味をそそられたのか、御手杵は「うまそう」とぼやいていた。

「それは買ってきてねえの?」
「ないね。クリーム溶けちゃうかと思って」
「うえー、まじかよ」

相当味が気になるのか、手元に無いと分かるなりがっくりと肩を落とした。
あまりにもしょんぼりとした姿が面白くて、つい笑ってしまう。
くすくすと笑っていれば恨めしげな視線が向けられたが、面白いだけだ。
見た目よりも子供に見えてしまって、あやすように頭を撫でてやれば、不満そうにうめく。

「ごめんごめん、また今度買ってくるから」
「俺は今すぐ食いてえの!」
「それは無理」
「……まてよ、味分かるんじゃないか?」

ぱっと上げられた顔は、さも名案が浮かんだというような表情で。
頭を撫でていた手をぱしりと掴まれたかと思えば、そのまま引き寄せられた。

「あんた、そのケーキ食べたんだよな?」
「え、急に何、ん!?」

さらりと茶色の髪が顔に触れる。
柔らかい感触が唇から伝わり、状況を理解するとぶわりと顔に熱が集まった。

ぬるりと口内に舌が侵入してくる。
驚いて即座に押しのけようとするが、ただの人の力が敵うはずもなかった。
舌でなぞられるたびにぞわりと背中が震え、息苦しさに頭がくらりとする。

「っは、う」

苦しさに呻いて、限界だと拳で弱々しく胸を叩けば、ようやく解放された。
荒く肩で息をしていれば、少し乱暴に濡れた唇を指で拭われた。

「ごめんごめん、苦しかったか」
「っ、苦しいとか、そういう問題じゃ……」
「だってあれしか方法が思いつかったからさあ」

だってじゃない。思いつかなかったじゃない。
色々言いたいことはあるのに、頭はぐるぐると混乱していて、上手く言葉になって出て来ない。

「んー、でもああすれば味が分かると思ったんだけどな。」
「分かるわけないでしょ」
「やってみねえと分からないだろ?」
「だから……」
「味分からないってなると、尚更気になるよなあ。そうだ、今度俺も連れてってくれよ」

またこれだ。と体から力が抜けるのが分かった。
いつも御手杵のペースに振り回されて、結局受け入れて許す自分がいる。
これはもう一生直る事の無い流れなのだろう。

にこにこと笑う顔を見て、溜息をついた。

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