燭台切光忠

真澄と光忠は、こじんまりとした白い空間に閉じ込められていた。

おかしい、さっきまで自分達は買い出しに行く為に町に出ていたはずだ。
もうすぐ万屋が見えるぞ、という時だった。
何が起こったのかよくわからない。が、気がついたら自分達はここにいた。

「ここ何だろな。どうすりゃ出られるんだか」

ぐるりと部屋を見渡すが、白い壁があるだけで他には何もない。
部屋の大きさは約三畳といった所か。改めて思えば本当に狭い。
とりあえず光忠と向かい合って座ってはいるが、ここからどうすればいいのだろうか。

悩み込んでいれば、光忠は「簡単じゃないか」と一枚の紙を差し出してきた。

「ここに書いてあることを実行すればいい話だろう? なら早く終わらせてしまおう」
「いやいやいやいや、あんた何言ってんだ。大丈夫か。
 もしかして疲労たまってる? 最近誉とりまくってるし頑張ってるもんな、うんうん」
「主、落ち着いて」

落ち着けるか! と真澄は出来る事なら投げ出して逃げ出したいくらいだ。
本当にこの部屋を作った奴は、見つけ出したら即ぶん殴ってやらないと気が済まない。

キスしないと出られない、だあ?

冗談じゃない。何だってこんなことをしなくちゃいけないんだ。
しかし条件をはっきりと提示されている以上、これ以外の方法での脱出はまず不可能なのだろう。
分かってはいるが受け入れたくない。

「僕とは嫌かい?」

適当にぺちぺちと壁を叩いていれば、ぽつりと呟く声が聞こえた。
発言の主である光忠は、どこか寂しそうに笑いながら真澄を見つめていた。

「嫌、ってわけじゃねぇけども」

そう、嫌ではない。正直に言って嫌だという気持ちは一切ないのだ。
が、問題はそこではない。

「あんたに悪いだろ、この条件は」
「え?」
「だって相手はあたしだぞ。光忠にも選ぶ権利くらい欲しいだろ、まあ今は残念ながら無理なんだけどさ」

な? と同意を求めるように言ったのだが、彼はきょとんとしながら「むしろ本望だけど」と言った。
本当にさらりと、当然だというように。
おかげで、今度はこちらが「え?」と聞き返す番だ。

「僕は君が良い。君以外はこっちから願い下げだよ」
「えっと、光忠さん、それはどういう意味でしょうか……」
「言葉そのままの意味だよ?」

にこりと微笑まれれば、冗談ではないのだと気付く。

ああ、これは何とも厄介な条件を出してくれたものだ!

「僕は君が好き。主だからってだけじゃなくて、ね」
「光忠、待てって」

ずい、と寄ってくる体を遠ざけようと手を伸ばすが、反対にそれを掴まれてしまう。
力強く引き寄せられて、結果的に遠ざけるはずがさっきよりも距離が縮まる。

「今だけは、脱出するために仕方ないっていう口実で許してよ」

部屋のどこかから、ガコン、と何かが開く音がした。



(光忠と審神者は『キスしないと出られない部屋』に入ってしまいました。
180分以内に実行してください。)

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