陸奥守吉行

「愛を叫ぶ、ね」

そんなの現世にいた頃にドラマでしか見た事がないぞ、と真澄はやや呆れながら腕を組んだ。
まさかそれをやれと言われる日が来るとは。
審神者業は本当に予想していない出来事ばかりが起きる。

どこぞの真っ白な鶴ではないが、「驚き」だ。

ポケットから持ち歩いていた懐中時計を取り出して時間を確認すれば、部屋に入ってから2分ほどが経過していた。
制限時間は10分とあるから、さっさと済ませるに限る。

「で、どっちが言うが?」
「あたしが言うよ。陸奥はそこであたしの愛の叫びを聞いてな!」
「きゃー流石はわしらの主じゃー! かっこいいー!」
「よせよせ、照れる」

びしっと親指を立てて言えば、隣にいた陸奥守は裏声で悪ノリしてくる。
陸奥守は真澄の初期刀なのだが、二人のノリは最初からずっとこれである。
たまにふざけすぎて他の刀たちから諌められる事もあるが、楽しいのでやめられない。

ごほんと咳払いを一つして、真澄は大きく息を吸い込んだ。

「……陸奥ー!!」

腹の底から声を出す。
さあ、今日こそ初期刀への思いを大声で伝える時だ!

「いつも場の空気を明るくしてくれてありがとう! 仕事も一生懸命こなしてくれるし頼りにしてる!
 にこにこ笑って傍にいてくれるだけであたしは救われてるぞー!!
 頼りない主だけど、投げ出さずに支えてくれるあんたが大好きだああっ!!!」

隣にいた陸奥守が、「主っ!」と感動しながら口元を手で覆う。
まだ悪ノリは続いているのか、女子のように裏声でなよなよとしながら、というオプション付きである。

「だから、これからも! あたしと一緒にいてくれー!」
「勿論ぜよー!」

二人して叫びながら、おー! と腕を上に突き上げる。

「一生近侍としてあたしの傍にいてくれー!!」
「うーん近侍か!」
「おう、近侍だ!」

笑顔を浮かべながら叫びつつ会話をする。

改めて「近侍か!」と尋ねてきた陸奥守に、こちらも改めて「おう!」と返事をすれば、その場に陸奥守が崩れ落ちた。

「き、近侍……こんなに長い間、傍におったっちゅうのに……わしの想いは届かんかったか……」

そのまま床に指でくるくるとのの字を書いて拗ね出した陸奥の頭に、チョップをお見舞いしてやる。
叫んでいたせいで気付くのが遅れたが、どうやら条件は満たせたらしい。
証拠に、壁の一角に扉が現れてぽっかりと出口をさらしていた。

「主、わしゃ泣いても良いと思うんじゃがのお……」
「なんだ出口開いてんじゃん。行くぞ陸奥」
「初期刀の切実な想いを聞いちゅうか!?」

聞いてる聞いてる、と適当にはぐらかしながら、真澄は陸奥の腕を引いて出口へと向かうのだった。


(陸奥と審神者は『どちらかが愛を叫ばないと出られない部屋』に入ってしまいました。
10分以内に実行してください。)


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