身長差

「背が高くなりたいなあ」

ふと呟いたその一言に、花京院はぱちくりと目を瞬かせた。

「そのくらいでナマエは良いと思うけれど。女の子は小さい方が可愛いよ」
「んー、でもせめて150は欲しいかなあ」

彼のことだから、きっとその言葉は本心で言ってくれているのだろう。
たしかに女性は背の低い方が可愛らしいとはよく言うが、実際平均にも満たない人からすれば皮肉である。

私の身長は146センチ。

エジプトへの旅の道中、出会う人はみんな揃って背が高かった。
仲間たちも、一番背が低い花京院ですら178センチという状態だ。

好きな人――花京院との身長差、32センチである。

自分の理想としては、
身長は160センチを少し超えるくらい。
彼の落ち着いた雰囲気に合うような、大人な女性。
というものがあるのだが……まずその身長すらクリアできていない。
落ち着いた女性、というのは、残念ながら自分の性格上無理なような気がする。
……なかなかに虚しい。

だからせめて、身長だけでも。

そんな思いはあるのだが、きっとこの年齢ではすでに見込みはないだろう。
はああ、と思いため息をつく。

「ああ、そういえば――抱きつきやすい身長差って、32センチらしいですよ」
「?」

抱きつきやすい身長差?
そんなものがあるのか。と、「そうなんだ」と返事を返しながら、にこにこと微笑む花京院を見上げる。

「それってちょうど、僕たちの身長差と同じだと思うんだけど。……試してみるかい?」
「えっ」

尋ねたくせに、こちらには拒否権も心の準備をする時間も最初から用意されていなかったらしい。
ぎゅむっと抱きしめられ、あっという間に私は花京院の腕の中にいた。

「ち、ちちちちちょっと花京院、あの!」

抗議しようと顔を上げれば、はにかんだような、幸せそうな笑顔が視界に飛び込んできた。

「ほら、やっぱりちょうど良いじゃあないか。こうして顔も見れるし。君はこのままで十分可愛いよ、ナマエ」

そんなことを言われては、抵抗しようという気が削がれてしまう。
おまけに、自分の顔に熱がのぼるのが分かって、赤い顔を見られないように顔を伏せるしかなかった。

彼にこんなことを言われてしまっては、何も言い返せない。
ああ、ずるいなあ。なんて思いながら、そのままぎゅっと彼にきつく抱きついた。


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