貴方色

彼を想って、爪に色を塗る。
彼はひまわりが好きらしいから、今回は黄色を塗ろう。

そう想って爪にのせられた色を見て、彼はにこりと微笑んだ。

「ああ、今日はその色なのか。君にとても似合っているよ、ナマエ」
「ありがとうシーザー。"好きな花の色"を選んでみたの」

彼が好きだというオレンジ色は、前に塗ってしまったし。
リンゴの皮をむく音が嫌いだと知って、なんとなく赤色は避けていた。思い出させても嫌だもの。
色々考えて、次会うときには、彼の瞳と同じ色を塗った。
それでもやはり彼は「似合っている」と答えて微笑むだけだった。
欲しい言葉はそれではないのに、ただ貴方を思って選んでいると気付いてほしいだけなのに。

(ねえシーザー、これは貴方の色なのよ)

会うたびに、会うたびに、彼の色を爪に乗せているのに、彼はちっとも気付いてくれない。
私の想いには気付かず、――いや、気付いているからこそ触れないのだろうか。
きっと私は、彼の周りに群がる女の一人としてしか見られていないのだろう。

でももしかしたら、という淡い期待を抱きながら、私は今日も爪に色をのせた。




彼女はいつも爪に色をのせている。
それが自分にちなんだ色ばかりだと気付いたのはいつだったか。

白く細い指先にある黄色を見つけて、似合っていると褒めてやる。
きっとその色は、自分が好きなひまわりの色なのだろう。

前はオレンジ色、次は瞳と同じ色。

何度見ても、やはり好きな相手が自分色に染まっているのは見ていて気持ちがいい。
それでも触れずにいるのは、彼女が悔しそうにむくれる姿が可愛いからで。

「やあナマエ」
「こんにちはシーザー」

駆け寄る彼女に微笑めば、同じように微笑みが返される。
さて、今日の彼女は何色に染められているのだろう?


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