水泡と光

ごぽり、と水泡の音が聞こえて、閉じていた目を開いた。

開いた所で、彼の視界に広がるものは面白みもない棺桶の蓋だけだ。

ディオはまだぼんやりとする思考回路をぐるりと巡らせながら、脳裏に浮かんだものを思い出していた。
眠っている間に夢を見た。
その夢の中で、過去の記憶の中で、自分の名前を呼んでいたあの女は誰だったか。

自分が今まで関わってきた人間なんて、とくに記憶に残ってなどいなかったのだが、彼女だけは何故か今でも焼き付いていた。

にこにこと笑いながら、いつでもまっすぐに生きる女だった。
強い女かといえばけしてそうではなかった。むしろ弱い。
周りにいた同年代の女の中でもずば抜けて弱かった。
すぐに泣くし、どんくさいマヌケだし、勉強だってろくに出来やしない。

正直に言えば、ディオの嫌いなタイプだ。
ジョナサンとよく似ている存在だ。ああ、尚更好みじゃないな。

まるで太陽だ。
きらきらと生に満ちていて、周りを眩しいほど明るく照らし続ける。
長い間暗闇の中にいたからだろうか……大嫌いなその光が、今だけは恋しく感じた。

しかし、自分はもう“太陽”を目にすることはなくなってしまった。

二度と顔を合わせる事のないだろう“太陽”に、ディオはふんと鼻をならす。
恋しいだなんて感情は、自分にはもう必要ないはずだ。
むしろ光なんてこちらから願い下げである。

おそらく自分が再び地上に上がるまでは、まだまだ時間があるだろう。

そうふんで、ディオはまた目を閉じる。
完全に視界が閉ざされる寸前、ディオは一つの名前をようやく思い出した。

「……ナマエ」

そうだ、ナマエだ。
思い出してもまた忘れてしまうのだろうが、すっきりした。
それでも満足し、ディオは目を閉じて機会を待つのだった。



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