―思い出話―
―ジョナサンとナマエ―
「おつかれ兄さん」
「ナマエ。情けないな、負けちゃったよ」
「こっち来なよ。簡単に手当しよう」
ちょいちょいと手招きすれば、ジョナサンは照れたような困ったような笑顔を浮かべながら歩いてくる。
試合の結果が判明してすぐ、ナマエは部屋にあった救急箱を見つけて手元に持って来ていた。
多分ジョナサンは、最初に自分の所に来るだろうと踏んでいたからだ。
「波紋である程度治せると思うけど」
「それは分かってるけど……」
もごもごと口の中で言葉を濁せば、大きな手が頭に乗せられる。
「なら、お願いしようかな」
「! うん!」
救急箱から薬と包帯を取り出しながら、ナマエはしみじみと懐かしさに浸っていた。
こうして、自分が兄の手当をするのはいつ以来だろうか。
子供の頃は兄も相当なやんちゃで、遊びに出かけては怪我をして戻って来ていた。
それを手当てするのは自分の仕事だったなと、思い出が蘇る。
「昔は、兄さんもたくさん怪我してたよね。近所の子と喧嘩したり、はしゃぎすぎてこけたりさ」
「それを君に治してもらってたけど――あの時の包帯の巻き方、酷かったな」
「今思えばぐちゃぐちゃだったもんね」
小さい手で、必死に包帯を巻いていたのを覚えている。
知識も皆無で、メイドがしていたのを見よう見まねでしていたのだから、当然といえば当然だ。
すぐにとれるし、見た目も悪いし、正直に言えばなんの意味も成せていないものだった。
それでも、兄はこうして自分に手当てをさせてくれていた。
「何回やっても、包帯だけは綺麗に出来なかったなあ」
「あれからだいぶ経ってるし、お手並み拝見といこうかな」
「やめてよ! ハードル上げないでよ兄さん!」
「あはははっ!」
そう言われると、一気に緊張してくる。
意識して丁寧に丁寧に仕上げていけば、昔よりも遥かに綺麗に巻かれた包帯が出来上がった。
「出来た!」
「ありがとう、ナマエ。やっぱり綺麗に出来るようになるものだね」
顔を上げれば、自分とよく似た顔がにこにこと笑っていた。
自分の大好きな兄と、またこうして笑って話せる日がくるだなんて思わなかった。
そう思うと、じんわり目頭が熱くなってくる。
「ナマエ?」
「うーん、駄目だね。ここに来てから、油断すると泣きそうになる」
かつて共に戦った仲間だとか、後を託した仲間だとか。
そういった存在と再会して、その先に続く未来を知って、結末を知って。
苦しい、悲しみ、喜び、怒り、色々な感情が一気にわき上がってくる。
大好きな兄に頭を撫でられれば、ぼろっと涙がこぼれた。
「泣き虫なのは変わらないね」
「っるさいな、そっちこそ相変わらず甘ちゃんじゃない」
ぼす、と胸を殴ってやれば、「痛い痛い」と笑われた。
「変わらないでいてくれて、安心した。君はやっぱり、僕の大事な妹だよ」
「私もよ。貴方は私の大切なたった一人の兄さんよ」
お互いにこりと笑いながら、目を閉じて額をくっつける。
自分のせいで君の人生まで狂わせる事になってごめん。
全てを背負わせてしまってごめん。
一人何も言えず先立ってしまってごめん。
最期まで家族を支えられなくてごめん。
「一緒に戦ってくれて、ありがとうナマエ」
「未来に繋いでくれて、ありがとうジョナサン」
あの日伝える事の出来なかった想いを、吐露していく。
こうして再会出来た今、どうか今度こそ最期まで隣に並んで立てるように。
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