―仗助とナマエ―

部屋に戻る途中、ついさっきちらりと話題に上がった人物の後ろ姿を見つけた。

「やあジョースケ」
「っ、なんだナマエか」

駆け寄ってぽんと肩を叩けば、どこか強張った顔の仗助が振り向いた。
へらりと笑ってみせるが、やはりどこか固い。

「……ねえ」
「なんスか」
「緊張してる? もしかして、だけどさ」

小首を傾げながらナマエが問えば、仗助は二、三度瞬きをしたあとがくりとうなだれた。

「少しだけ。だって俺なんかがシードって! 緊張すんなって方が無理っすよ!」

呻きながらぼやく仗助の肩を励ますように撫でながら、ナマエは苦笑をこぼす。

「ほら、あんまり考えすぎると戦う時うまく動けなくなるよ!」
「そうは言ってもなぁ……」

口を尖られてごにょごにょと口ごもる姿は、親子なだけあってジョセフと良く似ていた。
何気ない姿に血のつながりを見つけて、なんだか嬉しくなりながら、ナマエはぽんと手を叩いた。

「よし分かった。こうしよう」

声をあげれば、仗助は不思議そうに耳を傾ける。

「ジョースケが無事勝てたら、何でも好きなものを一つ買ってあげよう!!」
「えっ、マジ!? 何でもいいのかよ!」
「うっ……喜ぶ子孫可愛い眩しい……!! いいよ、ナマエさんにどんと言ってごらん」

ぱあ、と顔を輝かせる仗助に、思わず本音がこぼれてしまった。
運良く聞こえていなかったようだが、危ないところだった。もし聞かれたらどんな顔をされるか分かったものじゃない。

しかし、この言葉でここまで喜ぶとは、やはりまだまだ子供だ。
16歳だし、それもそうかと納得する。
さて、仗助は一体何をねだるのだろう。どうしようか、と悩む姿をナマエはニコニコと微笑みながら眺めて待つ。

仗助は一体何が好物なのだろう。
子孫全員の好きな食べ物を把握しているわけではないから、少し気になってそわそわする。

そして「じゃあ!」と笑顔で顔を上げた仗助は

「俺の好きなブランドがあるんスけど!」

と言い放った。

「うんうん……ん? ブランド?」
「そこが今度新しい靴出すらしくて!」
「く、くつ」
「それが欲しいっす!!!」
「お菓子、とかじゃなくて?」

尋ねるが、当然だろうという顔で頷きが返されるだけだった。

そうか、靴か。靴……。

てっきり可愛らしく好きな食べ物食べたい! とか言うものだと思っていた。
のだが、よくよく考えればそれはもっと年齢の低い子供の言う言葉だと気付く。
下手をすれば小さい子供ですら、最近は言わないかもしれない。
相手は男子高校生だった。

「じゃ、じゃあそれで……」
「っし! やる気出て来た……約束っスよ!」
「そうだね、嘘はつかないよ。頑張って勝っておいで!」
「おう!」

パン! と仗助とハイタッチを交わして、ナマエは仗助と別れる。

「靴、なんてここで調達出来るのかな……あとでスピードワゴンに相談しなくちゃ」

予想していなかった要望に、ナマエは思わず頭を抱えるのだった。


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