―ジョルノとナマエ―

少し会話をしたあと、承太郎は「仲間の所に行く」と言って部屋を出て行った。
再び一人になった部屋に次に訪れて来たのは、ジョルノだった。

「やあジョルノ。お疲れさま」

ひらひらと手を振るが、返答はなかった。

一度こちらに視線を投げたかと思えば、すぐにそらされてしまった。
どこか拗ねたような、落ち込んでいるような、そんな雰囲気をまといながらジョルノはナマエの座るソファーとは別のソファーにどっかりと腰掛ける。

おそらくは、先ほどの試合の結果が原因なのだろう。

――ジョルノは全敗してしまったのだ。
本当に一勝すらも出来ずに終わってしまった。

名前を呼んでみても、溜息を返されるだけで視線すらよこしてくれない。

(あ、そういえばアレがあったっけ)

ふと、財団が言っていたことを思い出す。
たしか、備え付けの冷蔵庫の中身は自由にして良い、だったか。
部屋に置いてある冷蔵庫を開けば、飲み物や食べ物がそこに並んでいた。
部屋を用意し、飲食物まで用意し、なんともまあ手厚いことだ。

ここは本当に不思議な場所だなあと思いながら、ナマエは冷蔵庫から一つ取り出す。
それを持ってジョルノの隣に腰掛けた。
顔を背けられはしたが、隣に座られるのは嫌ではないらしく安心する。

「ジョルノ」
「……放っておいてください」
「ねえジョルノ。ジョルノってば」
「しつこいんですよ、いいから放っておいて、くれ……って……」

ジョルノ、ジョルノと名前を懲りずに呼び続ければ、流石に気に障ったらしい。
語気を強めて口を開いたジョルノは、しかしすぐに目を瞬いた。

顔の前に差し出されたスプーンを見つめて、困惑した色を浮かべる。

「な、んですか、急に」
「えっ、プリン嫌いだった?」
「いえ、好きですけど。そうじゃあなくて、これ、何ですか」

これ、とジョルノがプリンののったスプーンを指差す。
訝しげな表情を浮かべながら、ナマエとスプーンを交互に見るジョルノに、もう一度ナマエは「プリン」とだけ答えた。

「試合頑張ったご褒美に。はい、あーん」
「一人で食べられますから」
「いいじゃない、一口くらい。こういう時くらい甘えてくれてもいいんだよ」

渋りはしたが、ナマエが諦めそうにないと分かると、大人しくそれを食べた。
まだ不貞腐れた顔は変わらなかったが、なんとなくまとう雰囲気が柔らかくなったような気がする。

「……もう一口」
「ん? ああ、はいどうぞ」

催促する姿は年相応に見えて、微笑ましくなる。

「次、もし試合に出るときは絶対に勝ちますから。全勝してみせます」
「ふふ、応援してるよ」

笑いかければ、ジョルノも綺麗な微笑みを浮かべて答えた。


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