ナマエの後悔の理由

巨大なモニターの設置してある、待合室のような作りの部屋。
モニターの前には一つのテーブルが置かれ、それを囲むようにソファーが3つ設置してあった。
そのソファーの一つ、モニターの真ん前に位置するソファーの中心に、一人の女が座っていた。

ナマエ・ジョースター。

ジョナサン・ジョースターの双子の妹である。

そんなナマエは今、モニターを眺めながら一人後悔していた。
なぜ、あの時自分はあんなことをしてしまったのだろう。

なぜ自分は長生きするという道を選ばなかったのだろうか! と。

ナマエは吸血鬼だ。
というのも、石仮面を被ったディオに対抗するため自身も同じように石仮面を用いて人間をやめたのだ。
兄と共に戦うために人間をやめたナマエは、ジョナサン死亡後に自ら人生を終えた。

ディオという敵を倒した今、もうこの世に吸血鬼なんてものは存在するべきではない、と。

そう思い、自ら日の光を浴びて灰になったのだ。

が、この奇妙な空間に呼び出されて、初めてその判断が間違いだと知った。

あのディオ・ブランドーが生きていただと?

予想していない事実を知る事になったのだった。
だってまさか、義兄弟である彼がジョナサンの肉体を奪って生きているだなんて想像もしないだろう。
しかも百年も海の底で生きていた。
挙げ句の果てに、ジョナサンの子孫たちと再び邂逅しているではないか。

自分があそこで死を選ばず生きていたのなら、きっと子孫たちの力になれていただろうに。

そう思うと、後悔するしかなかった。

――しかし正直なところ、ナマエの後悔の理由はもう一つある。むしろそちらの理由の方が大きい。
そう、ジョナサンの子孫たちだ。

さっきは力になれたのに、だとか、ディオとの因縁に巻き込んで申し訳ないだとか思っていたが、そんなのはほぼ後付けである。

はっきり言おう。

兄の子孫たちが可愛過ぎて長生きすれば良かったと後悔している! と!!

だって長生きすれば彼らの小さい頃を見る事が出来たのかもしれない!
上手くいけば「ナマエおねえちゃん」って呼ばれて懐かれていたかもしれない!
吸血鬼だもの、あのディオが百年生きていたのなら、自分だって不可能じゃあないはずだ。

「くっ……! 今からでも人生やり直したい……!
 出来る事なら確実にディオをぶちのめして消滅させてから、兄さんとエリナ義姉さんの幸せ生活を見守りたい!
 あわよくば長生きして子孫たちを甘やかしたい!!」

ダンッと思い切り足を床におろし、顔を両手で覆う。
部屋に一人きりなのだ。淑女として恥ずべき言動をしてしまうのも、今だけは見逃して欲しい。
うっかり足をおろした時に床のタイルにひびが入ってしまったが、それも見逃して欲しい。

だって、ずるいだろう。

あんなにかっこいいのに、自分が先祖だと分かるとちゃんと家族として接してくれるのだ。
それも破顔しながら。ナマエ、ナマエと名前を呼んでくれるのだ。

あれでときめかない奴などいない。あと出来ればナマエお姉ちゃんと呼んでほしい。

はああ、と溜息をつきながらうつむいていれば、モニターからわっと実況の声が上がった。
どうやらリーグの試合が始まったらしい。

ナマエは愛すべき子孫たちの勇姿を見る為に、モニターに食い入るように視線を投げたのだった。



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