新たな方法

薄暗い室内に、ぺらりと紙の音が静かに広がる。

少し時間をおいて、また同じように音が響く。
一定のリズムで刻まれるその音を出しているのは、一人の男だった。

きらきらと月のように輝く金髪に、血のような赤い瞳。
彫刻かとでも言いたくなるような美しい肉体。
首元には痛々しげな縫い目のような傷跡と、一つの星の痣。

奇妙な空気をまとい、黙々と本を読む男――DIOの横には、もう一つ人影があった。

「DIO様、それって面白いですか」

DIOが読む本を横から覗き込みながら、隣の少女が問いかける。
一人で寝るにはずいぶんと広いベッドの上で、二人は一つの本を一緒に読んでいた。
一緒に、というよりも、DIOが読んでいる本をナマエが覗き見している、というようなものだが。

「……読み終わったら構ってやるから、今は黙っていろ」
「ええ〜っ! 暇なんですよ、ひーまー!」

DIOの肩を揺さぶりながら、彼女は抗議を続ける。

「ねえおしゃべりしましょうよ。本なら後でも読めるでしょう? しおりでも挟んでおけば大丈夫じゃあないですか」

DIO様、DIO様、としつこく食い下がるナマエに、DIOはため息をつくしか出来ない。
他の部下はここまで馴れ馴れしくしてくることはないのに、ナマエだけは別だ。
呼び方こそ様付けではあるが、本心では自分を主だと思っているのかどうか怪しい。

「ナマエ」
「はい、何ですんぶっ!」

子供のようにぶーぶーと抗議を続ける隣の小娘の顔を掴んでやる。
自分の大きな手では、彼女の顔など片手で十分だ。
両頬をぶにっと片手で寄せてやれば、なんとも不細工な顔が目の前に出来上がった。

「DIOひゃま!」
「ふ、いつにも増して酷い顔だなァ、ナマエ?」
「ひゃなひてくらさい!!」

掴まれているせいでぴよぴよと尖った口が、上手く話せていない言葉を吐いていく。

あまりにも必死な姿に、思わずDIOも小さく笑いがこぼれた。

「大人しくしているか? 約束出来るなら解放してやろう」
「しまふ、しまふから」
「フン」

ぱ、と手を離してやれば、ナマエは急いで自分の顔をむにむにとマッサージし始める。
顔がつぶれたらどうするんだ、とか。
女の子に対して扱いが雑すぎないか、とか。
大人しくしていろと言ったはずなのに、変わらずぶつくさと文句を垂れる少女に、DIOはやれやれと肩をすくめた。

――ならば、望み通り女性に対する方法で黙らせてやるしかあるまい。

ぱたんと本を閉じれば、隣から喜ぶような気配を感じる。
DIO様、と飛びつかれるよりも先に、DIOの腕はあっさりとナマエの体をベッドの上に押し倒していた。

「え、あの」
「どうした? 構って欲しいのだろう?」
「ちが、そうじゃなくて、構ってほしいけどこういう意味じゃなくて……!!」

ぎゃあ! と色気も何もない声をあげながらシーツに沈んだナマエは、さっきまでの威勢はどこかへ無くしてしまったようだ。

なんだ、意外と可愛らしい部分もあるじゃあないか。

なんて思考がDIOによぎるくらいには、彼女は珍しく動揺しているようだ。

「ナマエ、大人しくしていろよ」
「は、えっ、まままままま待ってくださいストップ……!!」

目の前に迫る整った顔に、ナマエはぎゅっと目を閉じる。
そんなナマエの額に、DIOは軽く、わざとリップ音を立ててキスをしてすぐに体を離した。

「へ……?」

「なんだ、呆けた顔をして」
「いえ、なんでもない、です」
「まさか、何か――期待でもしていたのか?」

にやりと怪しい美しい笑みを浮かべてDIOが微笑めば、彼女の顔にぶわっと一気に朱が散った。

顔を赤くして黙り込む少女を横目に、DIOは閉じていた本を再び開く。
いい方法が見つかった。
今度からは、これで黙らせるとしよう。


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