企画 | ナノ


サタンの落胤、燐も今は取り敢えず落ち着いている。享楽好きなこのひとにとっては、ただただ面白くないの一言に尽きるだろう。

「もう少し楽しめるかと思ったのですが…案外早くに安定しましたねえ。ふむ」

思案しながら適当にその辺にある資料を眺めている。

「さて、どうしましょうか」

最高の玩具がなくなったような、そんな感じなのだろう。

「どう、って…また何か起こすつもりなんですか?」
「愚弟をけしかけたことはありますが、何かを起こしたことはありませんよ☆全ては奥村燐とアマイモンがやったことですから」

それにしてもつまらないなとこのひとは呟いた。

「奥村雪男の方も気になりますが、あれから何もないようですし」

ああ、実に面白くない。そう言いながら思案顔をしていたのが数日前。

「そんなの放っておけよー。お前がどうにか出来るもんでもないだろ」
「そう、ですけど。心配で」
「メフィストの野郎が?」
「いや、面倒なことにならないかと」
「確かに」

シュラさんに話を聞いてもらって、やはり不安になった。彼の計画がどんなものなのか知らないし、深く詮索する気もないけれど余計な被害は避けたい。

「じゃあ、遊んでやれば?」

まあ、何で遊ぶかなんて色々あるけどなーにゃはは、なんて言っていた、一昨日。

そして昨日は、

「お呼びですか、アーサーさん」
「ああ、久し振りだね名前。頼みたいことがあるんだ」

本部に呼ばれた。

「なんです?」
「あの悪魔も君からの罰なら甘んじて受けるんじゃないかと思ってね」
「それで?」
「灸を据えてやってくれないか」
「はあ、」

彼奴のせいでとか三賢者がとかサタンの落胤とか色々言っているのが聞こえた。

「それは結局、本部命令ですか」
「もちろんだ!他に何が?」

個人的なものかと思いましたなんて言えず、どうしようか考えながら了承の意を伝えたのだった。



* * *




そして今日。

「メフィストさん、これからお暇ですか」
「ええ☆今日は仕事も残っていませんので。どうかしました?」
「私と、ゲームしましょう」
「は?」
「だから、ゲームしましょう」

灸を据えつつ、悦を与えつつ、これから暫く静かにしてもらう方法。

「でも貴女全然やったことないでしょう」
「そのゲームじゃありません」
「じゃあどんな?」
「……スリル、はあると思います」
「ほう、気になりますね」

シュラさんが言ったように、

「私が勝ったら私の言うことを聞いてください。メフィストさんが勝ったら貴方の言うことを聞きます」

遊び、ますか。

「おや、貴女が賭けなんて珍しいですねえ。わかりました乗りましょう」
「じゃあ、そういうことで、」

開始です、と声を掛けた。

「これは、どういうことですかな、名前」
「どういうことも何もこういうことです」

メフィストさんの蝙蝠傘と私の刀がぎりぎりと軋む。

「スリルのある、ゲーム、でしょう」
「誰に唆されたんです?」
「さあ?それは勝ってから聞いたらどうですか」
「ほう、余裕ですね。…アインス、」
「させませんよ、」

ぐ、と思い切り弾いて、メフィストさんを後ろに飛ばす。
あらかじめ準備はしていたため、メフィストさんが飛び込んだ窓は本部の地下練習場に続いている。

「……随分用意周到じゃないですか」
「ゲームを楽しむためですよ」

いつもの呪文を唱えさせないために、近距離での攻防が続く。回り込んで、切り込む。

「貴女のことですから、本部…まあ、エンジェルにでも何か言われたんでしょうけど」

躱され距離をとられる。距離を詰めないとまずい。

「アインス、」

詰めつつ、魔法陣の描いてある紙を取り出す。自身の血を滲ませる。

「ツヴァイ…」
「“従え”、――屍番犬…!」
「――ドライ、“お菓子の鳩時計”」

召還したばかりの屍番犬が飲み込まれていく。構わず距離を詰める。

「剣技、“神威”」

青白い光に包まれた刀身が大きく長く姿を変える。そのまま斬り込んだ。この距離なら届くはず。

「アインス、ツヴァイ、ドライ☆」

刀身が届く前に再び聞こえた呪文。それと同時に、ぽんと音を立て煙を出して消えるそのひとに負けを悟った。

「私の勝ちですね☆名前」

私の後ろに回り込み、首もとには蝙蝠傘。口調に愉悦の他にほんの少しの狂気と怒気が滲んでいる。

「……はい。私の負けです」
「それにしても、今回はしてやられましたね。まさか貴女に剣を向けられるとは」
「そう思っていると思ったのでわざとそうしたんです」

あっさりと蝙蝠傘は離れていった。正面を向かされ、見上げる。

「どうしてこんなことを?」
「理由は、幾つかあります」

今日に至るまでのことを話した。目の前で、ほう、と考え込んでいる。

「本部の考えはわかりました。何かあれば、貴女を私に差し向けるという警告でしょう」

愛する貴女に刃向かわれることが一番身に堪えますからね、と比較的穏やかに言った。

「…ですから、どれだけ私が傷ついたかわかります?」

いくらこのひとのことを考えて行動したといっても、それを理解しながら許しはしない。そういうひとだ。

「お仕置き、ですねえ。わかってもらわなくては。それに勝者の言うことは何でも聞く約束ですし」

手首を掴まれた。その手には逃がさないというように酷く力が籠もっている。

「死ぬほど、愛してあげましょう」

にこり、と笑う彼に、私はこれから髄まで喰われるのだろう。



ただしきみがしね
(陥れたところでそれが自分に返って来ることなんて最初からわかっていた)

企画「おまえもか」さまに提出


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