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(高校生幼なじみパロディ/非NEXT)


チャイムが鳴る。いつもは長引き気味の鏑木先生の授業も今日は時間通りに終わった。珍しい。

授業は終わったというのに、後ろの席からはまだ何かを書いている音がする。彼は真面目だ。

「バーナビー、授業はもう終わったんですけどー」
「そんなの知ってますよ。先生が黒板に書かなかったこと、忘れないうちに書かないといけないんですからちょっと黙っててください」
「真面目くんめー」
「それはどうも」

休み時間の始めはいつもこんな感じだ。ノートが書き終わるまで放置。話しかけてもうんともすんとも言わないのだこいつは。だけれどもそれではつまらないので、バーナビーの気を引きそうな話題を提供することにしている。

そして今日は、とりわけ特別な話をしてあげようと思っている。

「鏑木先生ってさあ」

バーナビーはこの教師の話題には耳を貸しやすい。

「面倒くさがって黒板書くのよく省いたりするけど、なんだかんだ良い先生だよね」

バーナビーのシャーペンの速度が若干遅くなっているのを見てほくそ笑む。必死に耳を貸すまいとしている。そして、少しでも耳を貸そうとしている自分を必死に隠そうとしている。ばれているのにも気付かないかわいいヤツなのだ。

「説明もあんまり上手とは言えないけど、なんかこう人間的にさ、本当、良い人だなあってさ」

更にシャーペンの速度が遅くなった。バーナビーも認める先生の話だからこそ。理由はそれだけじゃないけれど。

「バーナビーもそう思ってるでしょ?知ってるんだからねー。鏑木先生の授業に対する姿勢が他の授業なんかと比べものにならないくらいだってこと」

大分遅くなったシャーペン。止まるまでもう時間の問題だ。

「バーナビーも認めるほどだもんね。さっすが、鏑木先生!知ってる?鏑木先生、女子の間じゃあ大人気なんだよ」

というか、本当は一瞬で止める手段も知っているのだ私は。
でも敢えて使わないで、焦らして、やっと。

「あれだけ良いひとだしかっこいいし、惹かれちゃうよね」

好きだなあ

その言葉に、シャーペンの芯が折れた。ペンが止まる。バーナビーも止まる。

「何ですか!さっきから聞いていれば。良いひと良いひとって。ボキャブラリーが少ないんじゃないんですか!!」

バーナビーはこっちを見ない。視線の先はノートのままだ。

「女子の間で大人気とか、かっこいいとか、そんなの、――知ったことじゃありませんよ…!」

そんなことを言いながら焦っているのだ。芯の折れたシャーペンはノートに叩きつけられた。

「鏑木先生は確かに良いひとですけど、あんな、大雑把で適当で、…なのに!――なんで、惹かれるとか、」

好き、だとか、

私もバーナビーも、鏑木先生は大好きだし、尊敬している。だけれど、バーナビーには先生よりも好きなものがあるのだ。

もう言葉に今までの勢いがない。相変わらず、視線の先はノートのままだ。幼なじみだからこそ、ここまで誘導出来る。バーナビーにおいて知らないことはあまりないから。

「うん、好きだよ、鏑木先生」
「――ッだから、」
「バーナビーだって好きでしょ、鏑木先生」
「そ、うですけど、だからって」
「なに?」

こっち向いて言いなよ。
その言葉にバーナビーはびくりと反応した。

「そんなこと、」
「ほら、こっち見る」

無理やり向かせた顔は、やっぱり赤かった。

「ちょ、っと、名前、近い、」
「バニーちゃん、嫉妬?」
「バニーじゃ、ありませ、ん、バーナビー、です…って、本当、近いから、ッ」

くちびるまであと何センチ?な距離で話す。今までずっと焦らされてきたのだ。今日ぐらい焦らす側が私でも全然許されるはず。気付いてないなんて、そんなの有り得ないんだから。

「嫉妬でしょ?鏑木先生を好きって言った私に。認めてしまえ、そして言ってしまえ」

顔を真っ赤にして、ずっとずっと言えずにこの年まで来てしまったその言葉を。

「…ッ名前、」


私のことが好きだってね!



隣まであと何メートルがいい?
(何メートルといわず、ゼロ距離まで!!)

title by 確かに恋だった




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