10000打企画 | ナノ


「少将、これだと航路が、」
「いいの、このままにして。白髭の情報が入ったから、これからそこに向かう」
「え、この人数でですか!?」
「そんな逃げ腰でどうするの?最近の男はだらしないね」

快晴。海の波も穏やかで、帆に受ける風も申し分ない。
そう、心のざわつきとは相反して。

「夜には着く。船は港に置かずに、島の東に。島に入ったら既に現地に到着してる海軍と合流してそこで指示を待つこと」
「少将殿はどうするんですか」
「野暮用がある。よって別行動」
「えええええ!」

俺達だけじゃ不安とか、それはねェっすよとか聞こえる声に溜め息をはいた。



* * *



東側にある林から島に入った。
本来なら堂々と港入りしたって良い…というかそれが普通なのだが、今回はそれは駄目だ。
いつも背負っている正義も今日は置いてきた。ちなみに制服も目立つから着替えてきた。
ばれたら元も子もない。

「…ったく本当、だらしない。イイ男はいないのかな」

そんなことをぼやきながら町中を歩く。

賑やか。
悪い方にではなくて、雰囲気もいい。
でもそれは多分、今だからだ。
白髭がこの町を、島を守り始めたから。

気付けば、人気のない路地だった。洒落たバーが目に入る。
何となくそこにいそうな気がして、ポケットに忍ばせた手錠を確認した。

「海楼石の手錠なんて、物騒なもん持ってんじゃねェか」

振り向かない。だって振り向かなくても誰かわかる。

「物騒?よく言う。そちらさんの方がよっぽど物騒でしょ、不死鳥さん」
「さて、どうだろうねい。能力者でもないのに腕っ節ひとつで少将にまで上り詰めたお前の方が物騒だと思うが」
「はは、誰のせいだと思ってる、の!」

後ろとの距離はもう既に確認済みだった。
武装色を纏って回し蹴り、それは呆気なく避けられる。そんなの百も承知だ。

「まァ、おれのせいだろうなァ」
「わかってるじゃない」

距離のあいた状態で、やっと相手の顔が確認できる。
不死鳥、マルコ。会うのは何度目だろう。

「しかし珍しいじゃねェかよい。正義背負ってないなんて」
「いつもは仕方ないの。仲間が周りにいるから脱ぐわけにはいかない。けど今日は、必要ない」
にしても、なぜ私だとわかったのか。
こいつにばれないようにしてきた。ここに来ていることさえわからないように。

「正義のためじゃなくて自分のためにあんたを捕まえる」

人気がないといってもここは町中だ。下手に音を立てれば邪魔が入る。相手の仲間たち、そして自分の部下を含めてこの島にいる海軍には出て来てほしくないのだ。一対一で誰にも邪魔をされずに戦いたい。
怪我人や、建物被害も避けたかった。今は正義を背負っていなくとも、騒ぎになったときに見られるのは海軍としての自分だから。

「軽率だな。たかがキスひとつのために海軍少将様がとる行動とは思えねェよい」
「自分のためって言ったでしょ。今は海軍は関係ない」

空気は冷たく張りつめていた。それに比べて身体は熱い。待ち望んだ時を知って、奮えているのだ。

「おれらに正義を語る資格なんてないが、まあ、そっちの方がよっぽど真っ当だな」

うるさい、と思った。ただそれを口に出すことすら億劫だった。
だって憎くて憎くて仕方なかった相手が目の前にいるんだもの。

駆け出して、武装色を纏った蹴りを繰り出す。避けられるのも想定済み。上に飛んだところをすかさず嵐脚で責める。これも避けられた。建物の屋根へ上り、少し上を飛ぶ不死鳥を見やる。

涼しげな顔でこちらを見ているのがむかつく。

「…筋はいいが、まだまだだねい」
「…………ほんと、うるさい」
「こんな場所じゃ、本気になれねェんだろ?」

そう、不死鳥の言う通りだ。
ここは何もない草原でもなければ、壊していいような廃墟でもない。人々が生活をおくる場なのだ。

「詰めが甘ェな。だから海賊なんかにキスされんだよい」
「う、うるさいな!あのときは、まだ新米で、そんな、」
「どうだか。時間はやったぞ?でもお前は逃げるどころかぼーっと突っ立ってたじゃねぇかよい」

まあ、鈍いお前のことだ。キスされるなんてのもわからなかったんだろ?
なんてにやにやして言うこいつを心底殺してやりたくなった、のに出来ないのだここでは。

「…絶対に捕まえる」
「おお、そうしてくれ。やれるもんならな」

その言葉に何かがぷつんと切れた。
カッと全身が一気に熱くなったと思ったら、剃で間合いを詰めていた。そのまま、嵐脚、に入る前に後ろをとられて腹に手が回る。翼をしまった不死鳥が飛べるはずもなく、そのまま、屋根へと降り立つ。

「え、ちょ、っと、離し、て!」
「誰が離すか。飛び込んできたのはお前だろい」
「はあ!?」

もがいてももがいても、がっちりと抱かれてしまっていて、腕は解けない。挙げ句の果てに首筋に顔を寄せられる始末。

「なん、なの!ほんと!」
「なんなの?…よく言うなァ、ナマエ」
「は?どういう、」
「鈍いんだよ、お前は。追いかけてたつもりだろうけどなァ、おれは追いかけられてやってた」

意味がわからず、思わず黙る。
追いかけられてやってた?なにそれ。作戦のうちってこと?

「負けん気は人一倍だからなァ。キスの一つや二つすれば、追ってくるだろうと思ってたさ」

つまり、私は今まで、こいつの思う通りに動いてたわけで、でもだからってこいつになんのメリットがあるのか。

「惚れた女に追われるのは気分が良いんでな」
「………ほれた、おんな?」
「そう、お前のことだよい。まァ、もう追われる必要もねェな。これからはおれが追いかける側だ」

追いかけられる、ってこいつに?
やっと状況を飲み込むと、ぞわぞわと鳥肌が立つ。

「え、ちょっと、ま、」
「待たねェよい。今まで散々待った」

―――まァ、明日一日くらい待ってやらないこともない。

耳元でそんな声が聞こえてから、そっと腕を解かれる。

「せいぜい遠くに逃げることだねい。追いついて捕まえる自信はあるが」

したり顔でそんな恐ろしいことを言う不死鳥を睨みつけて、逃げるようにこの場を後にした。
そんな行動は屈辱的だったが、捉えられるよりはましだと思う。
あいつに捕まったら、命よりも貞操が危なそうだ。そう思うとまた悪寒が走った。
さっきとは違う身体の熱さには、気付かないふりをした。



逃げるまで待ってるから、早く逃げてよ

(あれ、少将殿?野暮用は、)
(済んだ!それと駐在海軍には話をつけてきたから、我々は基地に戻る!急いで準備を!)
(お急ぎですね、少将)
(早くしろって言ってるんだけど!)
(あ、アイアイサー!)


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