2500企画 | ナノ

鳴ったインターホンに、母さんが無言で「出ろ」と促す。台所にいる姿を横目に、飯を作るのは食べているときと同じくらい戦争なんだと意味のわからないことを昔言っていたのを思い出した。

めんどくせェ、そう思いながらドアを開けた。

「こんばんはー!苗字でーす!親戚から梨もらい過ぎて、お裾分けに、…って、ローじゃん」

なんだ、おばさんじゃないのか、と肩を落として言う腐れ縁の幼馴染みにいらつく。母親とこいつがやけに仲が良いのはなぜだろうか。

「悪かったな、母さんじゃなくて」
「別に良いけど。あんたいつも出てこないじゃん、この時間」
「大体部屋に籠ってるからな」
「うわあ、引きこもり!」

言い返してもどうせくだらない言葉が返って来るだけなので、敢えて何も言わないことにする。

「あ、それで、お裾分けの梨です」
「ああ、どうも」

差し出される梨と伸ばされた腕。その先を辿って見ると、名前は部活着のままだった。

「部活だったのか」
「ああ、練習試合だったからね。余所の学校行ってきた。そこの学校遠くて気付いたらこんな時間に」
「大変だな、マネージャーも」

高校に入って、今こいつは男バスのマネージャーをしている。中学の時はプレイヤーだったのに、だ。世話なんかで収まる奴じゃないだろうと何度言いたくなっただろうか。

「大変大変。バカばっかりだから、ウチの学年」

呆れたようにそんなことを言いながらも、部員たちを大切に思っているのを知っている。

「聞いてよ、今日もさー」

マネージャーのくせして、プレイヤーみたいにぐったりとした顔で、遅くに帰って来て、

「―――でダンクが一本決まって、それからが、……」

格上のところとやった練習試合で勝ったとかで打ち上げしてお好み焼き臭くなって帰って来たり、

「だからあんなに釘刺したのにさァー…今後の課題だよねホント!」

インターハイ予選、望むところまで行けなかったって泣きながら電話してきたりして。
次の日は酷く目を腫らした状態で登校してきたのだ。

「ロー、聞いてる?」
「ああ」
「うそ、すんごいぼーっとしてた。聞いてなかったな!?」

一番近くにいたはずの俺が、そこにはいない。

「いいだろ、別に」

必死にプレイヤーのケアして、洗濯とか、練習準備とか、記録取ったりして、そいつらのために笑って、泣いて、怒って。

「俺には関係ねェんだから」

そんなお前とは、一切の関係がない。

「なに不貞腐れてんの」
「は?不貞腐れるようなところなかっただろ」
「自分の顔見て言えよ、何年幼馴染みやってると思ってんの」

いらいらする。それは目の前のこいつに対してじゃない。大丈夫だろうと高を括って今の状況を作り出した自分自身に、だ。

「不貞腐れたいのはこっちだわ」

誰よりも近いところにいるのは俺だと踏んだ、身勝手な自分。

「何の部活にも入らないでぐだぐだして、」

嫉妬、することになるなんて思ってもみなかった。

「高校入ってもバスケやると思ったから、マネで入ったのに、」
「――――……は?」

こいつの、一つひとつの表情が、他の奴らに見られていて、俺はそれを知らないなんて。
ほんと、いらいらする。

「入ってみたら、ローいないし!」
「どういう、」
「ローのバスケが近くで見たかったからマネージャーになったあたしは何なの、もう!」

でもそれは、どうやら必要のないものだったらしい。
自分でも馬鹿馬鹿しく思うが、一気に機嫌が良くなるのがわかった。

「…へェ、初耳だなそれ。俺のバスケ姿、そんなにかっこよかったのか?」
「え?…あ、――いや…えっと?」
「そんな熱い告白されちゃ、やるしかねェか」
「こ、告白じゃ、……!」

もう、やめだ。不快なら、その原因、全部なくしちまえばいい。
やっぱり俺は、こいつが欲しいのだ。

「近々、俺のお世話もすることになるから覚悟しとけよ」

目の前で、顔を真っ赤にして完全にショートしている名前の頭をひと撫でして、にやつく顔を抑えながら家に入った。

こうなったら、抜けられないくらいまで堕としてやろう。



きみ不足が深刻です

「ブザービーターで逆転勝ちとか、ホントやることがあんたらしいね」
「当たり前だろ。向こうに勝ちなんかくれてやるかよ」
「…うん、」

名前が嬉しそうに、恥ずかしそうに隣で笑う。
この表情は、俺だけにしか見せない。


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