さて、どうしようか。 | ナノ

またローの家に来て、宿題を教えてもらっていたとき、インターフォンが鳴って、めんどくさそうにローがモニターに向かう。角度的に、モニターがローに隠れて誰が来たのかはわからない。

「…帰れ」

ローがモニターに向かってぶっきらぼうにそう言った。

―――そんなこと言うなよ!お願い!な、いいだろーお前だけが頼りなんだよ!

「ペンギンに教えてもらえ」

―――いや、だから、ペンギンも。モニターに映ってねェ?ほらペンギン、こっちこっち!

「………帰れ」

モニターからわずかに漏れる声と、ローの対応からシャチなんだとわかった。ペンギンがいることも。しかしローは家に入れたくないようだ。

「入れてあげれば?」

そう言うと、すごく嫌そうな目でこちらを見た。不機嫌が身体の外にも滲み出ている。オーラが黒い。

「たまには、さ」

二人はこの炎天下の中わざわざ電車に乗ってまでローの家に来たのだ。このまま帰すのでは可哀想だ。ローは渋々といった感じで、オートロックを解除した。


* * *



「いやー、良かった良かった!帰されたらどうしようかと思った。なァ、ペンギン」
「…まあな。だけど、悪かったな、ロー」
「そう思うんならさっさと帰れ」

無事に目的を果たし終えた二人は、帰るそぶりも見せずそのまま居座っている。私は久々に二人に会ったから話せて嬉しいし楽しいし満足この上ないんだけれど、隣に座るこいつはそうもいかないようだ。

「名前がいるとは思わなかった。でも、久々だな。会えてよかった」
「ねー、私もよかった」
「俺ら上げたくなかったの、名前がいたからだろ?あんなに拒まなくったっていいじゃんかよォ」
「俺らだって名前と話したいしな」
「そうそう、ローは名前の独り占めしすぎだ!」

シャチの言葉を聞いてから、舌打ちをして、めんどくせェと呟いた。それから立ち上がり、廊下の方へ行ってしまう。呼びかけるとちらとこちらを見て、

「トイレ」

とだけ言って廊下のドアを閉めた。

「ありゃ、相当だなァ」
「早く出た方がいいかもな」
「何が?」
「お前は気にしなくていいの」

シャチがにやにやしながら答えた。ペンギンも頷いている。

「あ、そうだ。二人にずっと聞きたいことあって」

これまで訊けなかったというか訊くタイミングを逃していたことを訊くいい機会だと思った。

高校に入って、シャチと仲良くなったのは席が近かったからだ。ローやペンギンと仲良くなったのは、シャチが二人とすごく仲が良かったから。シャチとペンギンが同じ中学だったのは知っているから二人が仲が良いのはわかるのだけれど、ローは違う中学だったし、あの性格のローがすぐにこんなにも仲の良い友達をつくれるとは申し訳ないが思えなかった。

「入学してすぐから、中学違うのにローと二人は仲良かったからなんでかなーってずっと思ってて、でも訊くタイミングなくてさ」

二人はそれを聞いて納得顔をしていた。確かになーとシャチがこぼす。

「俺ら、ローとは幼馴染みなんだよ」
「ローは両親が別の病院に勤めることになって、ここに引っ越したんだ」
「だから、中学は別。だけど物心ついたときにはもう一緒にいたし、いるのが当たり前だったし、ずっと一緒に遊んでた」
「別の中学行っても普通に遊んでたしな」

思い出がいっぱい詰まっているようで、二人の話に終わりが見えない。あとからあとからどんどん出てくる。

「おい、なんの話だ」
「お前と俺らの馴れ初め話!」
「キモいからやめろ、おれはお前らと恋愛関係になった覚えはねェ」
「それぐらい仲が良いってことだろー!」

トイレから帰って来たローにシャチがすり寄る。すり寄り方がいかにもっぽくて笑ってしまった。ローはすごく嫌そうな顔をしている。振り払おうとしているがシャチは全く離れなかった。

それが落ち着いてテレビ前のローテーブルをまたみんなで囲むと、ペンギンが話を切り出した。

「俺もローに訊きたかったことがあるんだ」

ローは何も返さなかった。呑気にお茶なんか飲んでいる。

「お前、中学受験して、大学まである一貫校に行ったのにどうしてまた高校で受験し直したんだ?」
「…なんだ、そんなことかよ」

お前が言うからもっとヤバいことなのかと思ったのに、とローは続けた。いつもはうるさいシャチが今に限って静かなのが気になる。シャチも気になっていたのかもしれない。

「小学生のときは親にやってみればって言われて適当に受験した。どうせお前らと同じ中学に通えないことはわかってたしな」

ローはどこでも良かったんだなと思った。二人がいないなら、結局どんな中学に行っても。二人のいる中学に本当は通いたかったんだなと。

「行ってみればおれより出来ないくせに調子こく奴ばっかりでつまんなかったな」

ローは吐き捨てるようにそう言った。呆れていた。少し、態度が冷たい。

「それに、親の敷いたレールの上なんかつまんねェし」

ローらしいと思った。でも多分、それだけではないんだろうなとも思った。それからまた、ローも加えての三人の思い出話になり、シャチが粗方しゃべり、ペンギンがその補足説明をして、ローは聞くに徹するかたまに一言二言口を挿む程度だった。

「ローが高校受験するって決めたの、いつ?」

二人が先に帰って、疲れたように溜め息をつくローに訊いてみたのだ。

「……九月頃」

そんなこと訊いてどうするんだという顔をしながらも答えてくれた。

「シャチとペンギンが新海高校受けるって聞いたから、新海高校選んだの?」

九月頃から本格的に志望校を決めていく子が多いから、シャチやペンギンもそれぐらいから志望校を考えていったはずだ。
高校受験をする必要のない一貫校に通っていたにもかかわらず高校受験をしたということは、やっぱりローは二人のいる高校に行きたかったんじゃないかと思ったのだ。

「違ェよ」

返って来た言葉に表情はなかった。誤魔化そうとしているのか、本当にどうでもいいのか。

「おれが今のとこ受けるって言ったら、あいつらが勝手に同じところ受けただけだ」
「ほんとに?」
「しつこい」

ローが逃げたのでこれは誤魔化した、ということにしておく。ローの学力ならもっとレベルの高い高校に行けるはずだ。ローは二人の実力をちゃんとわかってて、今の高校に決めたんだと思う。「あいつらが勝手に同じところを受けた」というのは本当なんだろうな。二人もローと同じ高校に行くためにきっと頑張って勉強したんだろう。シャチなんか特に。
そっかと適当に相槌を打って、でもやっぱり笑ってしまった。

「何笑ってんだよ」
「何でもないよ」

なんだかとても嬉しくなった。



6-2.話す。



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