さて、どうしようか。 | ナノ

痴漢事件からあいつと私の関わり方が変わった。私はあいつのことをちゃんと名前で呼ぶようになったし、向こうも私のことを名前で呼ぶようになった。会話も以前とは違い、会話らしい会話(いらいらしないやつ)をするようになった。

「別にもう一人で平気なのに」
「おれの勝手だろ」
「どうぞーご勝手にー」

登校もあれからずっと一緒だ。というか、ローが私と同じ電車に変えてきた。最近はなんだかんだ帰りも一緒になる。気付けば、休み時間だって、シャチやペンギンと話すよりもローと話すことが多いかもしれない。

「前から思ってたんだけど、いつも何の本読んでんの?新書でしょ、それ」

隣に立つローは相変わらず混雑した電車の中で飄々と本を読んでいる。表紙をぺらりと見せられた。

「『医学の神髄』?随分とまたすごい本を…医者になりたいの?」
「両親が医者なんでな。こんな本しかなかった」
「……すごい家庭ですね」

私だったら絶対そんな本手に取らないな。いくら家にあっても。小説は好きでよく読むけど。ローはそういうのは読まなそうだ。

「小説とか、読まないんですか」
「読みますよ」
「うわ、なんで敬語!」
「お前が敬語使ったんだろ」
「ローが敬語とか、似合わない…」

ローはそれを聞き流して、また本を読み始めた。それを見て、続きを話すのは諦める。別に邪魔したいわけではないから。大人しく、ぼうっと窓の外を眺める。隣で、はあ、と溜め息が聞こえた。見るとローが鞄に本をしまっている。え、なんで。

「読んでればいいのに」
「お前が話したそうにしてるからだろ」
「そんな顔してた?」
「そんな雰囲気だった」

話せよ、って顔でこっちを見てくる。別にすごい話したいって話でもなかったからいざ話そうってなると、話しづらい。

「小説とか、あんまり読まなそうだから、意外だなって思っただけです」

はい終わり!さっさと読書に戻ってください!そんなつもりで言ったのに、ローはそうしてくれなかった。

「まあ、な。小説よりもさっきの本みたいな方が読んでる量は多い」
「小説、好きじゃないの?」
「好き嫌いで読んでるわけじゃねェ。役に立つか立たないかがおれにとっては重要なんだよ」
「なるほど、ローらしい」

その時電車が強く揺れた。思わずふらついて倒れそうになると、腰にぐっと腕が回った。

「危ねェな」

引き寄せられたせいで身体が近い。若干抱きしめられているような状況になっている。っていうか背、高いなこいつ。そんな少し逸れたことを考えていないと、自分がおかしくなりそうな距離だった。

「もう大丈夫だから離しましょうか」
「あと少しなんだから大人しくしてろ」
「いや、もう揺れないからね、さっきのところがピークだから」

身じろぎして、脱出を図るが、余計に腰を引き寄せられてしまった。耳元にローの声がする。

「大人しくしてろって言ったろ」

やっと普通の会話が出来るようになったと思ったら最近こういうのが増えて、どうしようかと思っている。



3.触れる。



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