さて、どうしようか。 | ナノ

あれから少しの間は元に戻っても、ローはまた同じことを繰り返した。普通に仲が良い分にはこっちだって気にしないのに、距離が、触れる手が、普通とは違うように思う。
相手の女の子が勘違いするような扱い方をローはするのだ。
だから、嫉妬した。泣いた。
その度にローは謝ってくれた。そしてそれを何度も繰り返す。

もうさすがにここ最近は泣かなくなった、というのは嘘だ。正しくはローの前で泣かなくなった。
シャチやペンギンに話を聞いてもらいながら泣くのが当たり前になった。そうして泣くのも馬鹿馬鹿しくなって、怒って、呆れて。
でももうそれも、終わりだ。

こうして私たちの関係は、この話の冒頭、ペンギンやシャチに私とローの関係を訪ねた上で両手に花の状態で現れたあいつの頬を思い切り叩いたあの日に、戻る。



* * *



付属品を連れて現れたあいつにビンタを食らわし、着信拒否もしてやってから、二週間は経った。
私の周りは平穏だ。
シャチももう仲直りだなんだと騒がなくなった。というか、ローとの関係が切れてから、シャチともペンギンともあまり話していない。私が二人といることが多かったのは、ローがいたからだ。だから自然とそうなる。

とはいえ私だって、この高校生活、彼らとだけ過ごしてきたわけではない。
仲の良い女子だっていて、だから別にその子たちと過ごす時間が多くなっただけで、別に支障はない。
嫉妬して泣いて怒って呆れてを繰り返していたときに比べたら、本当に平穏なのだ。

あいつもあいつで、恐ろしい量の電話をしてきたかと思えば着信拒否に耐えかねて直接文句を言いに来るなんてこともない。
だからきっと、もう、その程度の気持ちだったんだろうなと思っている。
お前以上なんかいないと言ったあの言葉もどこまで本当だったのか定かじゃない。

今になっては、もう、どうでもいいことだけれど。

ショートホームルームも終わり、今日の帰りどこに寄ろうかなんて話を友達としていた時だった。

携帯が震えて、画面に宛先が映る。ペンギンからだった。

「名前?どうする?」
「あ、ごめん、ちょっとペンギンに呼ばれた」
「ああ、…え、でも、大丈夫?」

仲の良い友達は、私のことをすごく気にしてくれている。
精神的にダメージを受けていた頃の私を知っているからこそ、あいつと仲の良いペンギンやシャチと話すものあまりよく思っていない。

「シャチならともかく…ペンギンだし。たぶん大丈夫。でもなんかあったら、話聞いてね」

わかった、じゃあね!何かあったらすぐに連絡入れてよ!そう言って帰っていく彼女たちを見送ってから、ペンギンが来るのを待った。

「悪い、日直で…遅くなった」
「そんなに待ってないから大丈夫。それで、話って何?」

私のひとつ前の席にペンギンが腰を下ろして、じっと私の目を見てから、彼は言った。

「名前はこれから、どうするつもりなんだ?」
「これからどうするつもりって、どういうこと?どうもしないよ、普通に過ごすだけ」
「ローと話はつけたのか?」
「つけたも何も……、終わったことでしょ」

つける話なんてあるだろうか。
悪いのはあっちで、原因なんて一目瞭然で、ついでに言うと私はあいつと会いたくもないし、話したくもない。

「終わった?どこが?」
「…終わったじゃん、別に話すことない」
「名前が終わらせたつもりになってるだけだろ」

話しの雲行きが怪しくなってきた。

「…ペンギンは、ローの味方するの」
「そういうことじゃない」
「だってそういう言い方でしょ!私が勝手に終わらせたつもりになってるって!向こうはそうじゃないからちゃんと話して来いとかそういうことでしょ?」

嫌だ、会いたくない。話したくない。考えるのだって嫌だ。だから何も考えないように平穏に過ごしてたのに。
どうして思い出さなきゃいけないのか。
じわりと目元が熱くなった。

「違う」
「何が…どこが違うって!?私がどれだけ、つらくて……」

気付けば、頬を涙が伝っていた。

「悪い、泣かせるつもりはなかった…。少し気持ちも落ち着いたかと思って話をしにきたんだが、おれの考えが浅かった」

ペンギンの声が少し暗く沈んだ。眉間にしわも寄せて、何をどう言ったらいいかを悩んでいるようだった。

「おれの言い方が悪かった。ローに味方するつもりはない。泣いてたお前をおれも、シャチも何度も見てきた。名前に非はない。だから、名前を責めるつもりはないんだ」

でもな、とペンギンは話を続けた。

「でもな、名前。まだ何も終わってない。ちゃんと、お前がどれだけ傷つけられたか、どれだけ嫌な思いをしたか、あいつに言わなきゃいけないとおれは思う」
「でも、もう、話したくない…会いたくもない…」
「そうだよな、だから、これきりだ。あいつはあれだけ傷つけておきながらお前のことが好きなんだよ。だから、思いっきりお前の今思ってることを言ってやれ。嫌いだ、話したくもない、会いたくもないって。名前にはあいつを傷つける権利がある」

やさしく、諭すようにペンギンが言う。

「思いっきりあいつを傷つけて来い。ちゃんと好きだった気持ちに、ケリつけてこい」
「ペンギン……」
「このままじゃ、ずっと尾をひく。身動きとれないままだぞ」

本当は、わかっていた。これは逃げているだけだって。何も考えないようにして、平和ぶって、何事もなかったかのように時間が過ぎるのを待つ。
そういう時間も必要だとそう言い聞かせていた。
自分がこれ以上傷つかないように、殻に閉じこもって、時間が過ぎるのを待って、自然消滅を望んでいた。

でも、何もなかったことにするには、一緒にいすぎた。好きになりすぎていた。

それを知っていたからペンギンは私に、ケリをつけてこいと、このままじゃ身動きがとれないと言ったのだ。

きっとこのままじゃいつまで経っても、時が癒してくれることなんてないんだ。
私が、決めないと。

「ケリ、つけるよ、ペンギン」

私ももう、前に進まなければ。



14.戻る。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -