さて、どうしようか。 | ナノ

二年生になった。
クラスはローと違うクラスになったけれど、二年になったからといって、本来ならその関係性は特別変わるものでもないだろうが、そうはいかなかった。
というか、正確には一年の終わり頃、私がまともに嫉妬した、その少し後からだ。

ローが、あの、ローが、女の子と仲良くするようになってきたのだ。
いや、それは実際いいことだし、やたらと女の子を毛嫌いしていたあの頃に比べれば恐ろしいほどの進歩なのだけれども、なんだか今までとは違う気がしてならない。
女の子との距離が近いというか、やたらと笑いかけるというか、らしくないことをしているように見えてしまうのだ。
意図的にそうしているのか、それとも、女の子を毛嫌いする前のローはこんな感じだったのか、私にはわからない。
わからないが、私の色眼鏡のせいか今までと違って見えてしまう彼のその行動に嫉妬してしまいそうになるのも事実なわけで、私はもやもやとした毎日を過ごしているのだ。

そんなにもやもやしているなら本人に言えばいいのかもしれない。ただ、言わないのは、私に度胸がないからだ。
そうやって疑ってかかってしまう自分が憎たらしい、私の見方のせいでそう見えているだけなのかもしれないと思うと彼に聞くなんてとんでもない。
そもそも私には出来過ぎた彼氏なのだ。
そう思うと、返ってくる答えを聞くのも恐ろしい。

別れるか

いつそう言われたっておかしくないと私は思っているし、言われたらその後、恋愛が出来る気がしない。
やはり自分の度胸のなさで、聞けずにいる。

とはいえ、この事態に、シャチもペンギンも驚いてはいるのだ。
だから、私だけがおかしいと思っているわけではないようだけれども、聞けないものは聞けない。

そうしてもやもやとして、鬱々とした気持ちを結局どこにぶつけるかというと、それはもちろん彼なのだ。
学校ではそんな状態の彼も、二人きりになってしまえば今まで通り。それよりもむしろ、今までよりも甘やかされているかもしれない。そんな気がする。

ただ、ローの家にお邪魔する頻度は減った。
ローのお母さんの一件があったせいではない。むしろローのお母さんはなぜか私を気に入ってくれているらしく、「連れて来いとうるさい」とローがげんなりしていたのも見たことがある。
ローの家にお邪魔する頻度が減ったのは、単に私の気持ちがついていかずためらってしまうからだ。

「寄っていくだろ?」

今日も今日とて私は渋っていた。
うーん、と気の乗らない返事をする私に、ローは顔をしかめる。

「用事でもあるのか」
「特にないけど……」
「じゃあいいだろ」

断る理由はないのだが、かといって寄るのも憚られる。
以前と比べて元気のない私を甘やかしてくれるのを知っていても、その先口走りそうになる言葉のことを考えると、そこは居づらい空間にあっという間に変わってしまうのだ。

「今日は、帰ろうかな……」

後のことを思うとやはり乗り気にはなれなかった。甘やかされた先に一体何があるのか。
いいことはない気がして。

「……最近多いぞ」
「そ、うかな」
「名前」
「いや、でもやっぱり今日は」
「……名前」

懇願するような声で名前を呼ばれると弱い。きっとローはそれを知っていてこんな声を出すんだろうけど、逆らえない私はなんてちょろい女なんだろうか。

たどり着いた玄関先で抱きしめられて、キスされる。
連れ込まれたローの部屋で、最近元気ねェなというローの言葉にどうしようもなくなって彼に抱きつけば、頭を撫でてくれる。

「すき」
「……へェ、珍しい」

あまりそういうことを口に出さない私をローが茶化す。睨んでやった。
こっちがどういうつもりで言ってるかもわかってないくせに。好きすぎてどうしようもなくて、どうにかなりそうで、だから必死に言葉にしてみたのに。

「お前以上なんかいねェよ」

額に落とされるキス。

「好きだ」

安心できるはずのその言葉に、本当に?と返しそうになった。

どうでもよくなるのはその場限りで、家に帰ればその反動か、学校でのローのことを思い出して余計に不安になるのだ。
それをここのところずっと繰り返している。
こんな状態、長く続きっこないことはよくわかっていたはずだった。

いつもの廊下。
移動教室からの帰り。
手前にあったローの教室前。
見知らぬ女の子の頭を撫でるローを見てしまった。

ああ、だめだ

そう思ったのは、見た瞬間だった。
急いで自分の教室に駆け込んで、ホームルームの間はずっと鞄に顔を伏せていた。
ホームルームが終われば、急いで教室を出る。ローと帰れる気なんてしなかった。一人になりたかった。さっさと家に返って、この汚い気持ちを吐き出すように泣いてしまいたかった。
なのになぜ上手くいかないのか。

「名前」

今にも泣き出しそうな私は、必死にその声の主を睨んだ。

「離して。今日は一人で帰るから」
「そんな面してるのに一人にできるわけないだろ」
「こんな顔だから見られたくないんでしょ!一人で帰るから!」

思い切り睨んだところで無駄だった。
有無を言わさず引っ張られ、連れて来られたのはいつぞやの屋上。
向かいには少し不機嫌なローがいる。

「それで、何があったんだよ」
「べつに、なにも」
「そういう顔じゃねェだろ」

ローが悪いんじゃん

心の中でつぶやいたつもりだった。

「おれの何が悪いって?」

素知らぬ顔で言うローが憎たらしかった。
何が悪い?女の子の頭撫でて?
これは怒るようなことじゃないの?
わざわざ傷つくようなことでもない?

ぼろりと、耐えていたものが溢れるのがわかった。

「彼氏が、他の女の子の頭撫でてるの見たら、そりゃ、……ああ、もう……」

耐えてきたものが一気に崩壊してしまって、思わず両手で顔を覆った。
嫌だった。他の子と仲良くしてるローを見るのが。
やっぱり私は、女子と距離を取る彼に安心していたのだ。
嫌な女だ。醜い。これくらい我慢出来ずにどうするんだ。

「やだ、……こんな、心狭い……」
「嫉妬で泣いてりゃな」

図星であった分、ぐさりと心に刺さった。
うぐ、と唇を噛み締める。

「馬鹿、冗談だよ」

そう言ってローが頭を撫でる。

「……いい。本当の、ことだし」
「前も言ったろ。嬉しいんだって」
「嫉妬、されるの?」
「お前に、嫉妬してもらえるのが」

ローの指が涙をぬぐってくれる。嬉しい。でも、醜い。
そんな複雑な心境が顔に出ていたんだろう、私の顔を見て、ローがふっと笑った。

「前はあんなに『周りと仲良くやれ』って言ってたのにな」
「……なんか、違うじゃん」
「ん?」
「そういうんじゃないじゃん、最近ローがやってるの」

言ってしまったと思ったが、もういい。
ここまでの醜態をさらしておいて今更何を隠そうというのか。
私が、やっぱりおかしいと本心から思っているから出てしまったのだ。

「おかしかったか?」
「うん」

言われたローはきょとんとしていたが、おかしいものはおかしい。

「ペンギンとシャチも変て言ってた」
「……そうか」

顎に手を当て考え込んで、何も言わないローを恨めしく睨むと、そんなつもりはなかったし、おれが悪かったと抱きしめて背を撫でてくれた。

前にローは、おれから離れるなと言ったけれど私だって、そうだ。

「私から、離れないでね…ロー」

顔を歪めながらそう言う私を正面からしっかり見つめて、「誰が離れるかよ」とローは言ってくれたけれど、やはりどうしても鬱々とした心は晴れなかった。




13.狂う。




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