memo | ナノ


新入社員の何人かも加わっての初めての企画。今日はそれの打ち上げだった。
紆余曲折あったが、企画は大成功だった。これは、新入社員の彼らの並々ならぬ努力の成果とも言えるだろう。それくらい、空回りしながらも頑張っていたのだ。それを、先輩の私も、そしてこの企画チームを引っ張って来てくれたリヴァイ課長も、しっかりとわかっていた。

だから、今日は課長のおごりだし(滅多にしない)、労いの意味も込めて私が皆の酌をしに回った。一通り声を掛け終え、盛り上がる新入社員たちのノリには乗り切れずに自分の席に戻ると、向かいの課長も、その様子に呆れるようにしながら、少しずつお酒を口に運んでいた。

「課長無しでは、ここまでの成功はあり得ませんでした。チームを引っ張ってくださって、ありがとうございます」

そう言って、お酌をすれば、からかうように笑われる。

「本当にそんなこと思ってんのか?」
「思ってますよ、引っ張ってくれるのが課長だから彼らも頑張れたんです。もちろん私も」
「はっ、どうだか」

そう良いながらも、お酒で少し赤くなった顔をわかるかわからないか程度のほんのわずかだけ嬉しそうにしていた。
…それが、どうしてこうなったのか。
今や課長は、私を隣に座らせて、酌をさせている。飲むスピードも、いつもの宴会では見せない速さだった。あっという間にグラスが空く。

「課長、飲み過ぎですよ、」
「あァ?俺に飲ませる酒はねえって言うのか」
「違いますよ。課長そんなにお酒強くないんですから、もうここら辺にしといた方が良いです。ね、課長、酔っ払ってますから、」
「酔ってねえ」
「そう言うひとが一番酔ってるんですよ、」

そもそも、こんな状態の自分を見せたがらないひとなのに、今日に限ってどうしてこんなになってしまったのか。新入社員たちも、普段の課長の姿とのギャップのある今の姿が気になるのか、騒ぎながらもたまに視線を寄越して来る。

課長自身が言ってたのに。「んなだらしねえ姿誰が見せるかよ」と。

「課長、ほんとに今日はどうしたんですか。いくら企画が終わったからって、こんなに飲むひとじゃないでしょう。何かあったんですか?」
「何か、だあ?なにも、…いや、あったな、そういや」
「なにが、」
「お前の注ぐ酒が旨い」
「はい?」
「お前の注ぐ酒が一番うめえ。だから俺のために酒を注げ。いくらでも飲んでやる」
「…いくらでもは駄目なんですってば。っていうかもう駄目です、限界超えちゃいますよ…いくらなんでも」

相手がリヴァイ課長であっても、今は酔っ払いだ。投げかけられた言葉にも深い意味はないはず。だから聞かないふりはしないが、流す。それでいいと思ったのだが。

「おい、…酒」
「もう駄目ですってば。話聞いてましたか、課長」

そう言えば、課長は引き下がった。しかし、すこし考えるような素振りを見せたかと思えば、鼻がくっつきそうなくらいの近さで言うのだ。

ーーーじゃあ、

「じゃあ、あと一杯でいい。ここから酒を寄越せ」

そう言って撫ぜられたのは、私の唇だった。

親指の腹でそっと慈しむように撫ぜるそれに、身体が固まる。これも、酔っているからこそだ。そう言い聞かせ、「課長、いい加減にしてください」と、そう言おうとした。したが、言えなかった。私の表情で判断したのだろう課長がそれよりも速く言葉を返したからだ。

「そんなツラしてんじゃねえよ。酔っ払ってようがなかろうが、俺が好きでもねえ女のこんなところ触るかよ、馬鹿が」

「……は、い?」
「ああ、別に酒はいらねえな、もう。これだけ寄越せ」

そう言って、唇に噛みつかれた。そこで一旦記憶が途切れる。気付いたら、飲み屋の外にいて、二人でタクシーを待っていた。でろんでろんに酔った上司をそのままにするわけにもいかず、最早わけのわからないまま課長の自宅前まで連れてきたものの、すんなりと入ってくれるわけもなく、自宅のベッドまで連れて行く。歩いてはくれるので重くはないのだが、離してはくれない。ベッドに倒れこんだのを確認して、それでは、と踵を返そうとすれば、手首を引かれ、ベッドに引き込まれ、そのまま抱きしめられた。身動きがとれないままもがいていると、後ろから寝息が聞こえた。相変わらず、抱きしめる腕は離れそうにない。摂取したアルコールと、近くにある体温と、規則的に聞こえる寝息が、私の眠気を誘い、いつの間にか深い眠りに落ちていた。

朝。目が覚めれば、ここは自分の部屋ではない。綺麗すぎる全てに囲まれて、自分だけがやたらと目立って感じた。身じろぎをすれば、ん、と唸る後ろの男。瞼が震え、うっすらと目を開けて見えた私の顔に一気に覚醒するも、飲み過ぎたせいで二日酔いが課長を襲う。これは絶対に、王道パターンだと思うのは私だけだろうか。

「何でお前がここにいる」
「……覚えていらっしゃらないなら良いです、帰ります」

いつもより深い皺を眉間に寄せて、思い出そうとしているようだったが、引きとめられることもなく、また私も引きとめられるような危ない橋は一切渡っていないのだからと振り返らずにそのまま帰宅した。

月曜日の昼休み、昼食をとりに出かけようとする課長を後輩たちが呼び止めた。私には課長にそんなことするなんて自殺行為のような気がしたが、初企画を大成功におさめた彼らに怖いものはないらしい。

会話が、漏れて聞こえてくる。

「あれからどうなったんですか、課長。あんな熱烈な告白して。でも、課長ですからね、断るひとなんて早々いませんよね」
「…はあ?何言ってんだお前。くだらねえ話をしてこれ以上俺時間を潰すつもりなら仕事の量倍にするぞ」
「え、いや、くだらなくないですよ。覚えてないんですか、課長。…いや、それはあんまりですよ」

これです、これ。そう言って後輩はスマホを取り出し課長に何かを見せていた。見せ終わった後に、何でこんなの撮ってんだよ、と言われ、いや、俺も酔ってたんで、って怖い!許してください課長!という叫びも虚しく、

「午後は仕事の量を倍にしてやる。身を粉にして働け」

そんなとばっちりを食らっていた。

程なくして課長に呼び出された私もまた「何でお前も言わねえんだよ」ととばっちりを食らった。

「だって、課長、酔ってましたし」
「ああ、そうだ。俺は酔ってた。酔ってはいたがそこに嘘はねえ。何だったら勢いで手も出しておくべきだった」
「手も出しておく、って、え、」
「お前のことだ、どうせ酔っ払いの戯言だと思ってたんだろうが、残念だったな。本心だ」
「え…っと、?つまり?」
「…つまり、全力で落としにかかるから覚悟しておけよ、と言うことだ」

再び放心状態となり、全く仕事にならなかった午後、その分の仕事をしたのはリヴァイ課長に勇敢にもあの画像を見せた後輩だった。


おしまい!

長かった…小話じゃない…そしてこれがほぼなにも知らない状態で書いたリヴァイ兵長です。ご存知の方、こういうところが原作と違うよーというところありましたら、教えてください。全く違う自信がある…。おそらく、原作は読むことになると思うので、そこで勉強しなおしますね。ですので、あえて直さず残しておこうと思います。原作を読まず、人の話や情報で書いた、私的「兵長っていうひとはこんなひとらしい!」。結局のところ自己満ですが楽しかった…。

リヴァイ兵士長は、
情報1:尊敬されるようなひとらしい
情報2:口が悪いらしい
情報3:お酒に強くないらしい
情報4:潔癖症らしい
情報5:気に食わないことをされたら後が恐ろしいらしい
的なところを参考に書いてみました。さて、どれぐらい違うんですかね。



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