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あなたが与えてくれたもの

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ぱちぱちと瞬く度に小さな雫が粒となって零れ落ちた。
黒くけぶる長い睫毛が白い肌に色濃く影を落とす。
作りものみたいだ。何度見ても、そう思う。
白くほっそりとした指が首筋を辿る。ピクリと震えた喉に、リドルの瞳の奥でゆるりと何かが揺れて、その昏さから目が逸らせない。
ゆっくりと、焦らすように緩やかな速度で下がる指先が ひたりと捉えた、喉の中心。
きゅう と細められた瞳の紅が深くなる。
弧を描く口元。
指先に徐々に加わる力。狭まる軌道。空気が、酸素が足りない。ひゅ、と喉が鳴く。
こわい のに、目が反らせない。
鮮やかな紅い瞳に射すくめられたように、身動きひとつ出来ぬまま。

「リ、ド…ル」

命を握られている。目の前の男に。抗っても、力では勝てない。不思議ともう 恐怖心は無かった。諦めにも似た開放感がじわじわと胸から腕、指先へと広がってゆく。
委ねるようにそっと 目蓋を下ろして、弛緩しきった躯を背後の壁に預ける。

「君、抵抗しないのかい」

ようやく発した声は甘く、何処か愉し気ですらあった。問いには答えずに唇を引き結ぶと、頭上でクツリ と笑う気配がした。

リドルがこうして喜色を隠しもしないだなんて、珍しいこともあるものだ。この男が興味を抱くものは限定的で、ひどく少ない。
ずっと、見ていた。だからわかる。わかってしまった。
――誰も、この人の「特別」には成り得ない。
哀しくは無い。だってそれは否定しようも無い事実で、嘆いたところでどうにもならない類の事だから。
私がリドルを好きになるのは自然な事で、叶わないのも当然の事。
想いが通じる、だなんて期待出来る程夢見がちでも、欠片程の望みに縋れる程盲目にもなれなかった。
なのに、私は近づき過ぎた。リドルに想いを寄せるその他大勢の女の子達のように、遠くから見ていれば良かったのに。そうして、ただひっそりとこの行き場の無い想いを抱えたまま、消えてゆくのを待てば良かったのに。
見てはならない裏の顔。見てしまったら、戻れない。
だからこれは、当然の結末なのだ。

「まさか、見られているとは思わなかったよ。僕とした事が 油断していたみたいだ。…君も不運だね。気付かなければ、失くす事も無かったのに」

哀れむ様な声音とは裏腹に、リドルの表情はひどく冷めていた。
失くす、その言葉が指すのは、何なのか、私は、

「オブリビエイト」


(リドル/貴方が与えてくれたもの)
(shortに再録)

 

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