「赤髪の王子」。
歩いている私たちを早足で追い越した女子が興奮気味に発していたその言葉の意味を、数分後に理解した。


「今日はどんな作品を創るんですかぁ?」
「よかったら見学させてください!」
「ずるい、私もー」


足を止めた私とデイダラの前方で、数人の女子に取り囲まれている人物。さっき私たちを追い越した女の子も侍らせている。不機嫌を前面に出し彼女達に対応しているその人物には見覚えがあった。


「サソリさん!?」


取り巻きの女子の視線が一気にこちらに集まる。
同じく私の声に反応したサソリさん(と思われる人物)は、気のせいかもしれないけど助けが来たと言いたげな安堵の表情に見えた。彼は周りの女子を軽く払うと、気だるそうに首に手をやりながら私たちの方へ歩み寄ってきた。


「体調は良くなったのか」

「う、うん」


何ということだろう。
サソリさんが生きているなんて!

異なる世界に飛ばされたという仮説からすると死んだはずの人間が同じ空間に存在していることは不思議ではない。逆に言えば、私の仮説は正しかったのだ。

楽天的な私の思考は、信じがたい現実を憂うことよりもサソリさんに再開できた喜びで大半を占めている。


「…それよりさっきの女の子達は?」
「いつもの追っかけだろ。旦那は大変だな、うん」
「ほんと女ってのはめんどくせぇ」


眉を顰めているサソリさんをまじまじと見つめると、ぎろと睨まれて思わず肩が震えた。

サソリさんが生きていることも衝撃だったけど、さらに驚いたのは彼の容姿。目の前のサソリさんの身体は完全に生身の人間のそれだ。目視でも肌の質感が普通の人間と同じものであることが分かる。私を睨みつけたのもガラス細工ではなく正気の宿っている眼球だ。それに、サソリさんが自分自身を傀儡にした時の姿から成長しているようで背はだいぶ伸び、顔つきも大人びている。見た感じは20代くらいの普通の青年だ。

「こっち」では、サソリさんは自分を傀儡にしなかったんだ。
それどころか、赤髪の王子なんて異名をつけられて女子の支持を得ている。だめだ。私の知っているサソリさんと違いすぎて笑ってしまう。


「何笑ってんだよ」


性格までは変わっていないのがとても残念だ。今のサソリさんの顔には私が見慣れていた人形の姿の時の幼さが全くなく、怒りの表情はさらに凄みを増している。どうせなら優しいイケメンになっていてくれれば良かったのに。そんな心の中を見透かしているかのように伸びてきたサソリさんの手が私の頬をつねった。


「いだだだだっ!」
「それよりお前ら、リーダーが全員招集してたぞ」
「リーダーが?」
「あいつの家にみんな揃ってるはずだ」


俺は用事があるから後で向かう、とサソリさんは去っていった。


「サソリの旦那が用事あるときって、大抵チヨバアのお遣いなんだよな、うん」


おばあちゃん子かよ!





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