何度確認しても「木の葉病院」という看板の文字は変わらなかった。振り返って周りを見渡すと、二度と目にできないはずだったものが視界に広がっている。それは私がかつて生活を営んでいた、馴染みのある自里の風景だった。


「何がしたいんだよてめーは!」


怒鳴り声の方向を見るとデイダラが私の靴を持って駆け寄って来た。病院の前に裸足で立ち尽くして居る私を見て、人々が怪訝な顔で通り過ぎていく。


「なんで…」
「あ?」
「何で私ここにいるんだろう」
「…とりあえず病院戻れ」


病院に連れ戻され、ロビーの長椅子に隣り合って座った。患者の話し声や看護師がばたばたと忙しなく動く騒がしさの中で、私たちの周りだけは静かだった。沈黙を破ったのはデイダラだ。


「何か混乱してるみてぇだから話を整理しようぜ、うん」


私は大きく頷いた。一刻も早くこのもやもやをどうにかしたい。目にするもの全てが理解の範疇を超えていて、頭がどうにかなりそうだ。


「まずお前が任務中にいきなり倒れて」
「ストップ!」
「もうかよ」


ああ、何でこんなに大事なことを今まで思い出せなかったんだろう!
ナルト達の登場にすっかり気を取られて、伝えなければならないことを忘れていた。


「ここで目が覚める前、私は…」





半年前に里を抜けそれから程なくして暁に入り、数ヶ月はメンバーの補助などの雑務をこなしていた。そんな日々の繰り返しの中、初めて単独任務を任された日。内容は、近くに居ると思われる八尾の居場所を突き止めて報告することだった。
思いのほか探索に手こずって森を彷徨っていた中、見覚えのある人影が目に入った。私は八尾よりもどこかに向かっていく人影を優先して追うことにした。

(私の助っ人で来てくれたのかも)

そうではなかったことに気付いたのは、彼がもう一人の人物と落ち合い会話を始めたときだった。隠れて様子を伺うつもりはなかったが、今出て行くべきではないことを本能が知らせていた。

「月の眼計画は順調なのか」
「俺の方はな。あとはやつらが尾獣狩りを進めていてくれれば問題ない」
「無限月読の試作とかいうやつは?」
「いつでも実行できる。限定月読でまた一つ計画に近付くことができる」

やり取りのほとんどが私には理解できなかった。しかし、新参者の私でもいくつか分かったことがある。彼は暁にとっていつか脅威となる存在だということ。優先的に報告すべきは八尾の居場所ではなく、今目の前で起きている事実だということ。
そして、

「まさか尾けられていたとはな」

結果的に、謎の水晶玉が私の意識を奪った。




「トビが何かの計画を実行しようとしていて、ゼツがそれに関与してる」


厳密に言うと、口調や仕草はこれまで認識していたトビのそれではなかった。何者かがトビの皮を被っているのか、私たちに見せていたのが彼の仮の姿だったのかは分からないけど、どちらにせよ組織の不穏分子であることに変わりはない。

デイダラは私の話を口を挟まずに聞いてくれた。ずっと無言でいるのは私の言葉の一つ一つに少なからず動揺し、理解する時間がかかっているからなのだと思った。
しかし、またしても私の見当はお門違いだった。


「ここまで聞いといて何だけどよ…さっきから出てくるトビって一体誰だ?」





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