「大丈夫か、ゆうこの姉ちゃん!」


周りの患者が目を覚ましかねないくらい大きな声を上げ部屋に入ってきた少年の存在は、私の頭の中を一瞬にして掻き乱した。


「ちっ。うざい奴が来やがったぜ…うん」
「おい聞こえてんぞちょんまげ!」
「あぁ? 爆死させるぞてめー!」
「やれるもんならやってみろってばよ!」


なにこれ?
異色の組み合わせが同レベルの会話を繰り広げているその光景が現実に起こっているものなのか判断する以前に思考が停止している。


「こらこら、ゆうこちゃん達困ってるでしょーが」
「だからアンタは連れてきたくなかったのよ!」


遅れて入ってきた二人の人物の存在もまた許容範囲を逸脱して、いよいよ私の頭はパンクした。

夢。これはきっとリアルな夢だ。


「ごめん私、現実に帰らなきゃ」


起こしていた上半身を再びベッドに沈めようとするも、それをさせまいとするようにデイダラに腕を掴まれる。


「なんかさっきから変だぞ。まだ調子悪いか?」


ううん違う。
私じゃなくてみんなが変なの。

だって、いまこの部屋にいる五人は絶対に相容れない関係で、普通に会話するどころか同じ空間に居る状況も成り立たないはずで。
デイダラを無視して、混乱したままの頭で少年を凝視する。


「ナルト…」


名前を呟いてみれば当の本人は目を合わせたまま首を傾げた。彼が彼であることに間違いはない。
そしてその横にいるのは、
「サクラ…と、カカシ先生」
意味が無いことが分かっていても敢えて確認すると、二人も不思議そうに私を見つめ返す。

「なんだってばよ急に改まって」

もし、万が一夢ではないとしたら、彼らが私のところへ来る理由は一つしかない。


「私を殺しにきたの?」


デイダラを含め全員が目を見開いた。図星の反応ではなく、何を言っているか分からないと言いたげな皆の表情。変な空気が流れているけどそれを気にする余裕なんてない。



「すまねー、こいつさっき起きたばかりで夢と混同してるみたいだ」


デイダラの一言が助け舟となり、固まっていたその場の空気が和らぐのを感じた。サクラが駆け寄ってきて私の右手を両手で包んだ。チャクラを注がれているのか身体の気怠さがましになった気がする。


「そうだったのね、びっくりしちゃった」
「変なこと言うなよゆうこちゃんってば!」


結局私の言葉は軽く受け流された。彼らの反応は取り繕っているのではなく本当に私の推測が的外れであるということを証明している。ただ私が寝ぼけているだけならどんなに良いだろう。非現実な状況を前にして、意識だけは現実にいることを自覚しているのがかえって辛い。


「ま、大事にならなくてよかった。俺達はこのあと任務だからもうドロンするよ。ゆうこちゃん、お大事に」
「…ありがとうございます」


彼らは本当に単純にお見舞いに来ていたらしい。一体どうやって私の居場所を知りやって来たのか知りたかったけど、さっきのような不穏な空気になるのが目に見えたから開きかけた口を噤んだ。


「デイダラさんも休んでくださいね、昨日から寝てないんでしょ?」
「な、ちがっ…!」
「んじゃ、二人で仲良くな!」


心なしか微笑むというよりにやにやしながら三人が退室し、嵐が過ぎたかのようにもとの静かな空間に戻った。


「お前のために起きてたわけじゃねーんだからな!」


枕元の本に視線を落とすと、『ストレスと病気』というタイトルとはみ出た付箋の端が目についた。





- ナノ -