柔らかい光にくすぐられて目を開けると視界に白が広がった。徐々に意識がはっきりしてきて、それが天井であることに気付いたのと同時に聞き慣れた声が耳に響いた。


「やっと起きたか」


声の方向に目をやると、今度は黄色が飛び込んできた。少し目線を下げると青。情報はその二色だけで十分だ。
頭を持ち上げようとするとずきりと痛む。大人しくしとけ と彼に制止された。仕方なく、顔だけを動かして横に居るデイダラに向けた。


「任務中にいきなり倒れて丸一日寝てたんだぜ、うん」


だから今ベッドの上に寝ているのか。白の配色の多いこの部屋を見る限り、私が居るのは病院だ。でも、さっきのデイダラの台詞が自分についての事だと言う実感がない。まず倒れる前の記憶がすぐに思い出せない。誰とどこで何の任務をしていたんだっけ?

必死に頭を回転させている私をよそに、デイダラは持っていた本を閉じて私の枕元の棚に置いた。読書なんて珍しいね、とからかう気力はまだない。


「ずっと隣に居てくれたの?」
「いや…ついさっき様子見に来た」


久しぶりに発した声の不安定さに自分で驚く。デイダラは自分が座っている椅子をベッドに引き寄せて、私の症状は一過性のストレスから来るもので特に病気の心配はない、と医者の言葉を受け売りするように説明した。どちらのものか分からない暁の外套が空いた椅子の上に置かれているのを意味も無く見つめる。


「そっか、迷惑かけてごめんね」
「別に。オイラ一人で事足りる任務だったし…うん」
「もうちょっと優しい言葉掛けてほしいんだけどな」


相変わらずつっけんどんな態度に呆れながら、椅子の上の外套から視線を上げて何気なくデイダラの目を見た。その目が、たった一瞬だけど私の脳のどこかを刺激した。この違和感は何なんだろう。


「なんだよ人の顔じろじろ見て」


青いガラスのような瞳。私は少し前に似たようなものをどこかで見た。丸くて、デイダラの瞳よりももっと大きい…ガラス、玉…丸い、…


「おい、ゆうこ?」


水晶玉。そう水晶玉だ!
でもどこでそれを?
落ち着いて思い出せ。私がこの病室のベッドに運ばれる前、任務中の事。だけど頭の中に靄がかかっていて記憶を引き出すきっかけが掴めない。唯一、いつのか分からない謎の眩い光に包まれている場面だけが脳裏にはっきりと浮かんだ。
光…?
ここで目が覚めたときの柔らかい日の光とは違う、もっと強い光だ。
そして水晶玉。




(お前には俺の試作品の被験体になってもらいたい)




「トビ!」


一気に靄が晴れたとき、私は勢いよくベッドから上半身を起こしていた。状況を理解できていないデイダラが私をぽかんと見つめている。


「トビって、だ…」


「ねーえーちゃーん!」


口を開いたままのデイダラの向こうにある扉が大きな音を立てて開き、もう一つの黄色が飛び込んできた。




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