「まさか尾けられていたとはな」


明らかに自分に向けられたその言葉に驚きの色は全く感じられない。
十分に距離を置いていても体の内側まで圧迫されるような張り詰めた空気が思考を鈍らせる。


「そこで何してたの」
「わざわざ説明しなくても聞こえていたんだろう?」


断片的に聞き取れた範囲では具体的なことまではよく分からなかった。ただ、


「どちらにしろ、この事はリーダーに報告させてもらう」


彼は、暁の本来の目的とは全く別のところで動いている。以前から抱いていたほんの小さな不信はたったいま確信へと変わった。


「まあ待て。俺がお前の存在に気付きながら泳がしていたのには理由がある」


身構えた私の視線が仮面の奥の目とぶつかった。その瞬間から、抵抗する術もなく全身の力が抜けていく。一人で深入りするのは分が悪すぎることに気付いた時には既に手遅れだった。



「お前には俺の試作の被験体になってもらいたい」




彼が手に持っていた水晶玉のようなものが光を放つ。

あまりの眩しさに、その言葉の意味を理解できないまま思わず目を瞑った。




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