「ゆうこちゃん体力ないなぁ! 先に行くってばよ!」


ペースダウンして息を切らせている私に優越感たっぷりの笑みを見せつけて走り去った少年は、派手に白テープを切った。その姿を恨めしげに追いながら数秒差でゴールするも、渡されたのは参加賞の手拭い。気づいたらナルトだけじゃなく他の数人にも追い抜かれていた。


「すみません、短距離走負けました」


屯所に戻って一番近くにいたサソリさんにとりあえず謝ると、小さく「だせぇ」の一言で終了した。
慰めてくれてもいいのに酷いなこのおじさん。見た目は青年だからって油断してると名前負けしないくらいの毒を吐いてくる。サソリさんの背中に向けて大げさな困り顔を作ってみせるとそれを見た小南が笑ってくれた。


「病み上がりだから仕方ないわよね」
「病み上がりったって、もう一月は経ってるぞ。体力つけろよ、うん」


本当にその通りだけど、その通りだからこそ改めて人に指摘されるとカチンとくる。言い返してやろうとデイダラを見ると、既に視線は私じゃなくグラウンドに向けられていた。


「飛段の奴が一番楽しんでるよな」


木ノ葉で定期的に行われている運動会に私たち暁もゲスト枠で参加させてもらうことになったとき、飛段だけが分かりやすくはしゃいでいた。要は体を動かしたり実力を競ったり、派手なことが単純に好きなのだろう。彼は障害物を全て破壊しながらゴールして失格になっていた。


「じゃ、オイラもうすぐだから」


デイダラは飲みかけのスポーツドリンクを私に投げてハチマキを結び直した。私たちに渡された紫色のハチマキは、普段まとまっていない暁が統一感を持っているように見えて何だか不思議だ。「ぜってぇナルトには負けねー」と意気込んで待機場に向かうデイダラもなんだかんだ楽しんでいるみたいだ。
炎天下での短距離走は中々にきつかった。屋根がある屯所のおかげで日差しを遮られ、立っているだけで火照った体が少しずつ冷まされていく。ふと後ろの方に目線を下ろすと艶やかな黒髪が目に入った。


「イタチはもう出番終わったの」
「後はサスケの借り物競争を見るだけだ」
「…弟思いだね」


茣蓙に座って上品に羊羹を頬張っているイタチに参加賞の手ぬぐいを渡すと、礼を言って受け取ってくれた。それと同時にアナウンスが鳴り、次の種目が借り物競争だと告げられ、側にいたサソリさんが舌打ちをして消えた。ハチマキを頭に巻くのが恥ずかしいのか申し訳程度に腕に巻いていたのが可笑しくて、居なくなった隙に笑った。

みんなが外套を脱いで、同じ色のハチマキをつけて木ノ葉の人達と仲良く運動会をやっているなんて、本当の世界では絶対考えられないことだ。こういう日常もありなのかもしれないと思ってしまうことが敵の術中に嵌っている証拠だとしても、私は徐々にこの世界での居心地の良さに浸っている。






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