はらり、はらり。上手くまとめようと躍起になるほど一部はまるで生きているみたいに反抗し、掌から滑り落ちる。


「実は相当不器用だろ、うん?」
「うるさい。静かにして」
「へいへい」


次第に苛立ちが増してきた。落ち着くためにいったん手を緩めると一気に黄色が溢れ出し、結局初めの状態に戻ってしまった。

憎らしい程にさらさらの髪。デイダラが一人で結っていた時に興味本位でやってみたいと言い出した手前、途中で投げ出すのは何か悔しい。


「もういい自分でやる」


痺れを切らしたのかデイダラが後ろに伸ばしてきた手が私のそれに重なった。その一瞬が恐ろしく長く感じたけど、実際は私の方が即座に手を離した。反射的に接触から逃れた手は再びデイダラの髪に触れるのをためらった。

デイダラはというと何事も無かったかのように、私が弄っていたせいで少し乱れた髪を掴み、慣れた手つきでまとめ始める。


「結ぶ量はこのくらいだ、うん」


やはり自分でやるのが早いらしい。デイダラは器用に実践して見せながら、私が先程時間をかけてやった時よりも上手く髪を纏め上げた。

かと思えば、それまで無駄のない動作だった彼の手が次にする事を忘れてしまったかのように固まった。


「どうしたの」


まさかここまで来てやり方を忘れたなんてことはないでしょう。こちらに背を向けているデイダラの頭を斜め上から見下ろしながら尋ねてみても返事がない。回り込んで表情を窺うべきなのか。

長いことデイダラの後ろで膝立ちになっていた姿勢を変えるために、未だ止まったままの彼の手から目線を外した。それと同時に腕を掴まれる。驚いて視線を上げるとあの黄色が視界に一気に広がった。


「ちょっ、」


デイダラは私の腕を引き寄せてこちらに向き直ると、バランスを崩して倒れ込んだ私の身体を胸で受け止め、もう一方の腕を背中に回して固定した。

右手は掴まれたまま、左手は自分とデイダラの身体に挟まれて抵抗する術がない。せめて言葉で抗議しようと開きかけた口はすぐに塞がれた。ついに結われることのなかったデイダラの髪の毛が視界の全てを覆う。ふわりと香る同じシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる。

いよいよ酸素が足りなくなり、自由の利かない左手で思い切りデイダラの胸を押すとようやく彼の唇が離れた。荒い呼吸音が室内に響く。状況が理解できずに息を切らせながらデイダラを見ると、顔を赤らめた彼は口をぐにゃぐにゃに曲げて目を逸らした。


「お前が悪い」


それって手が触れた事?
なにそれずるいよ。どきどきしていたのは自分だけかと思ってたのにこんな形で示してくるなんて。デイダラはいつもそうだ。私が応えて欲しい時は涼しい顔をしてる癖に、諦めた頃に身勝手な欲を押し付けてくる。ずるい。ずるいよ。


「もう髪なんて結んでやらない」
「オイラだって願い下げだ」


まだ呼吸が整っていないのに、デイダラはお構いなしにそれを乱してくる。振り回されてばかりなのにいつも許してしまうのは、きっと絶妙なタイミングで与えられるこの甘ったるい毒に酔いしれてしまっているからなのだろう。

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