打算的な女は嫌いだ。
かまととぶる態度はお手の物、それで相手の隙を誘導し好機を見つけた瞬間がばと口を開けて食らいつく。その補食行動は見事なほど巧妙で、見た目に察し辛い分たちが悪い。


「素敵だね、それ」


などと思ってもいないことを平気で口にする神経に虫酸が走る。褒めながらその目はオイラの作品ではなくもっと先の何かを見据えている。

遊郭で拾ったこの女はオイラに好意を寄せていることをあらゆる方法で示してきた。しかし薄っぺらな常套句にたらし込まれる程にオイラは落ちぶれていない。都合良く抱ける女という利点が無ければとっくに捨てていた。


「媚を売るならもう少し上手くやれよ」
「そうやって邪推するのがあなたの悪い癖ね」


いつだったか、隣で寝ていたまつこが涙を流しながら知らない男の名を呟くのを聞いた。その時感じた謎の違和感に気付いたのは暫くしてからのことだ。オイラに対する異常な執着に合点がいってからは、目の前に居る女の一挙一動が何とも滑稽で仕方がない。

それなのに、まつこがその目を本性に染め上げるまで付き合ってやっているオイラは、まだ人として捨てたもんじゃないかもしれない。そっちが虚像を演じ続ける限り、オイラがお前に抱いている憐憫の情だって存在しないことになるんだ。お前はオイラを愛している振りをして、オイラはそれに応える振りをする。


「本当はね、デイダラのこと最初は何とも思ってなかった」


丁寧に鎖骨に指を這わせてくるまつこは形だけ愛しそうな声を取り繕う。


「失恋から立ち直るために誰かが必要だったの。…でも、いつの間にか好きになってた」


嘘を吐け。
言っただろ、そういう女は嫌いだって。お前の瞳に爛々と満ちている毒気や後ろに隠し持っている刃物が常に矛盾を孕んでいるんだよ。早く認めてくれ。こんな安芝居はとっとと終わらせて本当のお前を見せてみろよ。




確かに、私はあなたに明確な理由を持って近付いた。愛する人を殺された恨みは生涯消えないものとして私の中に刻んだつもりだった。だけどいつの間にか強く灯していたその光が弱まり、違う場所で小さな火が灯っていたことに気付いた時、私の憎悪の対象は自分に変わった。

デイダラは私の殺意に気付いていた。その芽を早くから摘み取らないのは少しくらいは良心の呵責があるからなのか、それとも気まぐれか。想像したところで彼の本心は分からない。私が間抜けな女を演じ続ける限り彼もまた実像を見せてくれないのだから。


「…そうかい。さすが元遊女は演技が上手いな」


あなたは一つだけ間違っている。
隠し持ったこの凶器はもうデイダラの心臓を突くためにあるのではない。機が熟し、あなたにではなく私自身に刃物を向けてようやく、あなたは私の真意を全部見抜いていた訳ではないことを知るだろう。

でもそのためには彼の心にも火を灯さなければならない。彼の身勝手な同情が私と同じ感情に変わり、それが確かなものとして形を帯びるまでいつまでも待ち続ける。「愛する人」を目の前で喪う痛みを身を以って教えてあげる。だからまだ茶番は止められない。あなたが降参するまでいたちごっこは終わらないよ。

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