「デイダラく〜ん」


一体、なんなんだこれは。

甘ったるい声で名前を呼んでくる目の前の女は、少なくともオイラの知っているまつこではない。まさか幻術か、それとも夢か?…いや、やはり幻術なの「どうしたのぉ、怖い顔しちゃって」

ずい、と身体を近付けてきたまつこに驚いて身を反らすと、それ以上に距離を詰められる。
いつもは目が合っても死ねとかキモいとかしか言わない癖に(それで良くオイラも耐えてたもんだ)、今は媚びるような上目遣いで見つめてくるし、やたら身体を引っ付けてきやがる。そんな発情期の猫のような姿を前にして、いくら回転の速いオイラの脳でも処理が追いつかない。それでもまつこの身体が触れている部分にちゃっかり全神経を集中させているのは男の性ってやつなのか。


「デイダラとちゅーしたいなぁ」
「はあ!?」


上目遣いを続けたままのまつこがもう待ちきれないというように自分の下唇をぺろりと舐めた。い、今のはいやらしかったな…うん。
もはや別人としか言いようがない仕草や言葉に動揺しつつ、何がこいつをこんな風にしてしまったのか原因を考えてみる。しかしその間にも耳元で甘い言葉が囁かれるせいで考えがまとまらない。酒か…?いやこの女はかなりの酒豪だし酔った所なんて見たことがない。

…ん、待てよ。今のまつこはまるで、普段ぞんざいな扱いを受けているオイラがささやかな抵抗として好き放題にしちゃっている想像上のまつこそのまんまじゃねーか。何が起きているのか分からないが、まつこと触れている身体の部分が熱を帯びている感覚からしても、どうやらこれは現実らしい。と、いうことは。脳内でしかできなかったあんなことやこんなことを、現実にできる日がとうとうやってきたのか!た…高まる、高まるぞ、うん!!細かいことを考えるのはやめだ!


「それ以上のことも、いいよ…」


もう駄目だ、
オイラの思考回路は爆発寸前…



ぼんっ。

一瞬オイラの理性がショートした音なのかと本気で思ったが、そうではなかったらしい。もくもくと膨らむ煙の中にまつこの姿は消える。

代わりに現れたのは憎たらしい渦巻仮面の。



「思った以上にうまくいっちゃったなーハハハ…」

「…どういうことだトビィ」

「ただの暇つぶしですよぉ。でも僕が変化を解くまで気付かないなんて、どんだけまつこさんに弱いんですかー!あやうく僕がデイダラ先輩とキス…うえ、気持ち悪ぅ。そんなんだったら敵の罠にすーぐ引っ掛かっちゃいま…あ、じょ、冗談ですよ先輩!起爆粘土はやめて!!ごめんなさい許してください喝はやめてェーー!!!!」


「死にさらせクソ野郎があぁぁ!!!!!」


マジで喝する5秒前

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