「今日晴れてるね」
「だな」


見晴らしのいい丘の上。まどろんでしまうくらい気持ちよくて、両手を伸ばし欠伸をした。忍たるものこんなに隙だらけの瞬間があってはいけないものだけど、デイダラが隣に居るという安心感がそんな堅苦しい観念を取っ払ってくれる。


「デイダラの芸術が見たいなー」


一瞬の美、彼曰く美しく儚い。きっと私が思っている以上に奥が深くて価値のあるデイダラの芸術。何でそんなものに拘るかなんて私には分からないけど、それに執着する彼は一番格好良くて、魅力的だ。
隣に座っていたデイダラは何も言わずに粘土を取り出すと、掌の口に含ませてあっという間に鳥の造形をつくりだした。小さな鳥はデイダラの手によって宙へと投げだされ、ぼん、と小さな爆発音が響いたあと巨大な鳥が姿を現した。


「乗るか?」


もう既に鳥の上にいるデイダラが得意気な笑みを浮かべて私を見下ろす。大きく頷いたあと私はそれに飛び乗った。初めて見た時は、小さな鳥から(しかも粘土で造った)こんなに巨大な飛行物体にできるなんてと、すごく驚いていたのが懐かしい。
バサバサと大きく羽ばたいて、乗っている鳥が飛び立った。最初はゆっくりと、そしてだんだん加速していき空を自由に飛び回る。もともとあまりバランス感覚の無い私は、掴まるものなしでは絶対に乗れない。デイダラの服の裾を掴みながら、この鳥って定員3人だったよね、とかどうでもいい会話をする。あっという間に移り変わっていく景色よりもデイダラの背中ばかり見てしまうのは、この背中に何度守られたことだろうなんて考えてしまうからだ。


「まつこ」
「ん?」
「怖いか? うん?」
「ちょっとだけ…あの時のトラウマがね」
「まだ引きずってんのかよ」


あの時は一緒に落ちてくれてありがとう。
ずっと前にこの鳥から転落した時、きつく握っていてくれたあの手の温もりは忘れられない。お前が離さなかったからオイラまで一緒に落ちたんだよ、と照れくさそうに言い訳していたデイダラの姿が脳裏によみがえる。
鳥がスピードを緩めた。
デイダラの瞳の色と同じ空のスカイブルー、下に見える森の緑、眩しい太陽の橙。全てデイダラが見せてくれる芸術。私はずっとこの景色を忘れないよ。


「デイダラー」
「うん?」
「大好きだよ!」
「…聞こえねーなあ、うん」


聞こえてるくせに! 風の音に負けないように空に向かって叫ぶ。いきなりデイダラが後ろを振り向いて、顔を近づけてきた。触れるだけのキス。「言わなくても分かってんだよ」耳元で囁かれる声。彼が隣にいる幸せに、そっと目を閉じた。

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