私は待っている。私を、愛してくれる―主人を。



その手に愛を、頬に唇を

(そして囁くは貴方への愛しい想いだけ、)(08-side.---)



私は随分長い間、私を愛してくれる主人を待っている。何故そうなったかなんてろくに覚えていない。ただ私は人をポケモンを食らい全てを凍りづかせ壊していたが、ある女が、私に告げたのだ。お前は愛を知らないから、孤独の己を癒すために全てを壊すのね、と。そんなことをいって私の身体を撫でた女に、私は驚き尋ねた。お前は私が怖くないのか、私は全てを食らい凍らせる存在だぞ、と。そうすると女はにっこり笑い、癇癪を起こしている子供のどこが怖いのと言った。お前にとってあれらの命は子供が壊した玩具も同然なのかと私は驚いた。女は緩く首を振り、あの人たちは皆感染病で死ぬ者たちよと言った。―――それだけを覚えている。女はいつの間にか年老い、子供も大きくなりどこかへ消えてしまった。私はこの洞窟で一人、愛を教えてくれる主人を待ち続けている。



…ああ、思い出した。そう、その感染病だ。あれは、あの時代の薬では治らぬ病で、たった一人の人間が感染したそれが、次第に他の人々へ移り、ポケモンにも影響を与えた。死することを覚悟したものたちは、丁度飛来しやってきた私が「人もポケモンも食らえる」存在だと知り、体力のなかった私に言ったのだ。お前ならばこの感染病を、これ以上広げないため、私達を凍らせ、殺せるだろう?と。私は何故お前達のような存在を食らわねばならないのかと問うと、ここへ住む交換条件だと申してきた。…そして私は食らった。感染病は病にかかったものだけがしっていたらしく、健康体だった人間は死した者たちを私が食らったと非難し私を此処へ押し込めた。



そのときあの女が来たのだ。そして教えてくれた。…懐かしい、あの女は年老い子が大きくなり、新しい命を儲けていたな。たしかその女の孫にあたる娘が、何度かきたことがある。そして不思議なことをいったな。「私はおばあさまが貴方の言葉を理解したように、私にも理解する力がある。けれど私は貴方のその氷を操れるような者ではないし、貴方は永い時を孤独に生きているために、理解しがたいものが沢山ある、それを教えれる様な者でもないわ。ただ貴方の主人となるべき子を、私の子孫に見出せるはずよ」お前もまた不思議な奴だなといえば、それもそうかもしれないわと娘は笑った。…だからそうだ、私はずっと待ち続けている。全てを教えてくれる主人を。



私は冷酷だ。食えといわれれば人もポケモンも食らうことが出来る。凍りにしろといわれればそうも出来る。全て願われれば、出来る。…私はもうどれくらい待っただろうか、女達の言葉を聞き入れ、待つことを、もう随分している。主人は現れるのだろうか。



「現れるよ。僕がそうだとは、言えないから残念だけど」

『    誰だ   』



久しく現れた人間は、緑の髪をした男だった。帽子を軽くずらし、視線を向けてきた男のその目は、どこか暗く淀んでいる。けれど奥底には、しっかり光を見た事のあるようなものがあるから、泥沼に居るだけのものではないようだ。



「僕は自分の罪に耐え切れなくて逃げてるような奴だ、けれどどうしても僕は光たる二人を忘れられない。どうしようもないから、貴方に僕を食らってもらおうかと思ったけど、…それはムリなようだ」

『食らえばいいのなら食らってやってもいい、どうせ退屈している、ここでお前のような命が一つ無くなろうとたいしたことではないだろう?』

「そうだね、僕が死んでもいいだろうけど、…ブラックは泣いてくれるかな、ホワイトは怒るかな…まあ、…いいけど。でも残念、僕は貴方に食らっては、もらえないらしい。僕は未来が見えるからね」

『未来?何を抜かした事を』

「本当だよ。僕の光たる二人が貴方の主人になることだろう。でもそうだな、貴方には、あの傷ついた優しい子のほうがいいはずだ」

『傷ついた優しき者?なんだ、それは』

「直接確かめるといい。僕のようにポケモンと会話が出来るわけではないけれど、貴方の言葉はきっと分かるはずだよ」



男は笑うと骨張った手でするする私を撫でる。いっそ今凍り付かせてやろうかとも思ったが、やめた。…この者のいう言葉、少し気になる。



『私は、愛ゆえに命を落とした者が居る事をしっているが、理解は出来ていない。私にその者は愛を教えてくれて、全てを悟らせてくれるか?』

「それは貴方と彼女次第だろうけど――ああ、ポケモンへの愛なら誰にも負けないブラックも側に居るし、大丈夫だと思うよ」

『そのものはブラックというのか?』

「いや、貴方の主人にぴったりなのは、ホワイトという名の女の子だ。片割れがブラック。二人とも、僕にとって…光そのものだよ』

『――。…お前、名は、何だ?』

「…名前?…捨てたよ。…でもそうだな、貴方にだけ、言おう。僕は、 」



男は名を言うとふと視線をどこかへ向ける。そして私もそちらへ向ける。何もない場所―――そのはずなのに、うねりのある癖のついた長い髪を一つに結った少女が此方をぼんやりと見つめていた。腰にはポケモンのはいった、ボールがいくつかあり、少女の影はふわりと消える。



「…ブラックたちが来るのか。…なら消えなければ」

『…消えるのか、』

「ええ。…またいつか会えたら、その時は。…さよなら、キュレム」

『――ああ』



男は姿を消す。私は再び静寂に包まれた洞窟の中で、天井を見上げた。…不思議な人間ばかりが私に寄ってくる。あの女や、その血を受け継ぐ娘。そして若き闇を纏った男、その男と縁(えにし)の深き―――対たる双つ(ふたつ)に分かれて生まれてきた者たち。ああ楽しみだ、私の主人に、なれるのか――――――楽しみだ。







08 end // 10.10.05



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