大切なボールに触れる感触、ねえ、N、君は今それをどう捉える?
その手に愛を、頬に唇を
(そして囁くは貴方への愛しい想いだけ、)(06-side.Black)
「っしゃああ!よくやったわ、水丸!」
嬉しそうにホワイトがガッツポーズすればキズぐすりで治し褒めてボールに戻す。勝負を挑んできた女性は苦笑いし、「完敗だわ」と溜息を吐いた。有り難う御座いました、そう軽く頭を下げれば女性は緩やかに弧を描き笑う。これ、差し上げるわ。きのみをいくつか貰うとホワイトは有り難う御座います!と頭を下げ、俺も軽く頭を下げて礼を言う。とりあえず、いい感じに柔軟が出来た。この調子なら今日は結構上手くバトルを進められそうだ。俺とホワイトのコンディションも良くなったし、相棒であるカークスたちも安心して戦えてる。俺の表情も、多少なりとも和らいだ。
「、……トウコ。次、いこう」
「そうね、それじゃ、お元気で」
「ええ、また会ったら勝負しましょ!」
女性の言葉を背に俺たちは歩いていく。彼女は最初近くで働いているといっていたけど、カゴメタウンではなくソウリュウシティの住まいだった。勝負前に尋ねたとき話について知らないらしかったから、早々に諦めたけど。それにしても、話が気になる。昔話、確かに聞いたのだけど―忘れてしまっている。母の言葉も気になるし、案外結びついたりして。そう思っているとホワイトが「あ、」と声を上げた。
「そういえばブラックが起きてくる前に、お母さんに言われたのよね」
「え、何が?」
「私達が起きる前、かなり早い時間帯に連絡が来たらしいの。…プラズマ団の、七賢人が逃げたって」
「!!」
「確か、チェレンも七賢人たちを連れて行くの同行してたのよね?多分隙をつかれたんだと思う。なんかそのことで、私達にライブキャスターで連絡するって――」
その瞬間ライブキャスターがけたたましく鳴り響く。慌てて画面を見れば、母と知らぬ男の人が映っていた。
『奥さん、話が違いますよ…息子さんと娘さんは家にいるからって言っていたから来たんですよ!』
『すみません〜、この子達どーしても旅にでるってきかなくて』
「お、お母さん?その人誰、まさか浮気相手!?」
「ホワイト、テレビドラマの見すぎ、だよ…ええと、あの、どちら様でしょう?」
『君はブラック君、かな?そっちがホワイトさん。私は国際警察の者でね、ハンサムとでも呼んでくれ!』
微妙にテンションの高い人にホワイトが「こういうタイプ苦手」とぼそりと呟き俺は苦笑いする。話を聞けば七賢人、そしてゲーチスが逃げたらしく、俺たちに協力して欲しいという事らしい。いくらトレーナーで、プラズマ団を壊滅に追い込んだとしても俺たちは子供だ。そんな仕事を子供に託していいのかと迷うけれど、彼等が逃げたなら、俺たちが捕まえなければならない。ホワイトの顔を見れば「勿論よ」と頷いたので引き受ける。見つけ次第連絡し捕獲させてもらう。話が終わったのでライブキャスターを切ろうとすると、ハンサムさんが慌てる。
『ああああ!それと関係ないことだが君達にプレゼントだ!』
「は、い?プレゼント?」
『君達カゴメタウンに向かうなら、そっちのポケセンに宅配を至急寄こすから受け取ってくれ。すごいつりざおをあげよう!ポケモンを水辺で釣れるぞ!使い方はわかるかね、水のある場所で釣竿をやり反応があればすぐにひく!そうすると釣れるぞ!』
「は…あ。ありがとうございます…?」
なんで釣竿なの?ホワイトの疑問は声にされなくても理解でき、俺は再び苦笑いするしかない。有り難う御座います、それじゃあと連絡を切れば、俺は息を吐き出した。何だろう、俺も多分あの人苦手だ。何せ意味が分からない。
「…カゴメタウンに急ごう」
「そう、ね…はあ…なんか疲れた」
二人で溜息をつき、俺たちはいそいそとカゴメタウンへ向かうのであった。
「―カゴメタウン…ここか」
中へ入れば、階段をあがり橋から繋がった塀の上でチラーミィがきょろきょろしているし、奥にはおばあさんが一人日向ぼっこしてる。そっちをみては溜息を吐くスキンヘッドの人は家族だろうか。和やかというか平和というか。
「あら、貴方達トレーナーさん?ここはカゴメタウン。おはようからおやすみまで規則正しく暮らす町よ。太陽の光をいっぱい浴びて生活すれば夜もぐっすり眠れるわ」
にっこり笑う女性はすたすた歩いていく。規則正しく。昔聞いた通りだ。俺たちは橋の下を通り一度ポケセンの隣をすり抜ければ、見えた警察官の人に声をかける。
「すみません、お聞きしたい事があるんですが」
「なにかね?本官此処に配属されてからなーんにもやることが…」
「あの、でしたら話を聞かせてもらえたら、と」
「話?なんの話かね?」
「えっと、カゴメタウンには昔話があると聞いたんですが…」
「昔話?……ああ、あれか!それならここにある階段を上り右へいくといい。家を構えたところにおばあさんがいるだろ、ほら」
見える位置に案内されると、さっきみたおばあさんがいる。なるほど、あの人が昔話を語る人というわけか。有り難う御座います、お礼をいって近くにある階段を上っていわれたとおり右へいき進めば家の前に座るおばあさんが居た。
「あ、の…」
「―ちょいとそこの旅人さんや。カゴメ昔話でも聞いていかんかね?」
コッチを見てにっこり笑うおばあさん。俺たちは「それ」が聞きたかったから、即座に頷いた。
―ふいに腰元のボールが揺れた。軽くそれを握り触ると、ホワイトの帽子が脱げ掛かっていたのか朝の風に揺れて空へ飛んだ―。
06 end // 10.10.04