彼を探す中一つの話が、私と結びつくとは思わなかった。
その手に愛を、頬に唇を
(そして囁くは貴方への愛しい想いだけ、)(05-side.White)
ソウリュウシティの近くで降りたブラックはボールにレシラム(名前は、ええとバルカン、だったかな)をしまうと、息を吐き出した。私はブラックから視線を外しソウリュウシティへつながるゲートへ目を向けた。ブラックにNを探すことを進言した私は、あれからお風呂につかってじっくり考えた。考えてああいったけれど、ブラックの心を傷つけていないか、それが心配だった。そう思う時点で私は己のダメさ加減に気付いて苦笑いするけれど、Nについて私が言っていいか、まだ少し迷いはある。それでも、私は彼にきちんと向き合う事を望むから、探すよう口にしたのだけど。もしブラックが拒絶するならば、私は一人で探しに行くつもりだ。行って彼を見つけてブラックの前に引き摺ってきてでも連れてくるつもり。ぱしゃんと風呂から上がってシャワーのノズルを捻り、髪をを濡らし全身にシャワーを浴びれば私は熱い息を吐き出した。何があっても、彼にきちんと謝って、彼がブラックと一緒に居ることを、ちゃんと認めたい。そして、私が見守ることを許してもらいたい。ブラックとNが惹かれあってることなんて遠の昔に知っている。だからこそ私は余計に嫌がったりしたのだけど、今はすんなりその事実を受け止められるから不思議だ。居なくなって初めて気付くなんとやら、だろうか。ノズルをもう一度捻ってシャワーを止めれば、頬や胸に張り付いた髪を後ろへ流し私は風呂場から出る。身体も頭も洗って今までの、酷すぎた自分を洗い流して、ちゃんと―真っ直ぐ歩きたい。濡れた髪から滴る水を見つめたことをそうして思い出せば、私はくるりとふりかえりブラックに尋ねる。
「ソウリュウシティからいけるのは、どこだっけ?」
「マップによるとカゴメタウン、てとこのはずだよ」
「カゴメタウン……あれ、どこかで聞いたような」
「お父さんのお母さんの出身地だよ」
「…あ、そうか。おばあちゃまの出身、カゴメだったわね。昔話を聞いた事あるから、思い出せた」
父は仕事の関係で遠い場所にいる。その父の母、つまり私達にとっての祖母の出身は同じイッシュ地方だけど、カゴメタウンという場所だ。あそこはたしか古い話があるようで、それがいまだ根付いているのか、それとも意識に刷り込まれてるのか。夕方になると人は誰もが家に帰ってしまうらしい。だからあそこの出身の人は定時帰宅の人できっちりしてるらしい。祖母の話は覚えていないけれど、そうだ―父も祖母の影響か、いつも夕方には仕事が終わって帰ってきていたな。
「昔話、なんだったかな…ホワイト、覚えてる…?」
「全然。まあ、誰かに聞けば話してくれるんじゃない?」
緩く首を傾げれば行きましょう、と私達は歩き始める。カゴメタウンはソウリュウシティのリーグへ繋がるゲートとは反対側にあるゲートから進める。ライモンシティのポケモンミュージカルの隣のゲートからも行けるけれど、あそこからとなると二つの街を抜けなければならないから手間が掛かる。こっちからのほうが早い。ゲートを抜けてソウリュウシティへ入れば、早朝だからか人の姿はほとんどない。これは好都合。私とブラックは多少なりともジム制覇、四天王も倒しプラズマ団を壊滅に追い込んだから名が少し知れてしまっている。顔を知ってる人もいるかもしれない。今までは名前が知れていようと、旅をするトレーナーなのだから気にならなかったけど人探しの旅の場合は違う。
「ブラック、一ついい?」
「何?」
「これから、“他人の前”じゃ名前、偽名使うわよ」
「ん?なんで?」
「一応、ほら…私達はプラズマ団を壊滅に追い込んでるから、名前知れてるのよ。…プラズマ団の王だった人を探すのに、都合が悪いわ」
「そ、っか。…分かった。で、偽名はどうすればいい?」
「そうね、私達の名前は色からきてるし…。何にも染まらない、無色透明の存在でいる、ということから、トウコとトウヤでどう?」
「いいんじゃ、ない?俺たち、双子なわけだし、対のこの名前もいいけど、おそろいっぽいそれも、いいから」
「決まり。んじゃあトウヤ、行くよ。Nは、此処でも演説があったりしたからいるはずがないもの」
「そうだね。訪れたことのない、カゴメタウンにいるかもしれない…既にそこでも演説なんかが行われていなければ、だけど」
軽く伸びをすれば私とブラックは真っ直ぐ歩き見えてきたゲートを通り抜けていく。あ、朝早くてもやっぱり案内の人はいるんだ。
「おはようございます、トレーナーさん」
「おはよう、ございます」
「おはようございまーす」
「朝早くから旅ですか?」
「ええ、まあ。理由がありまして」
「そうですか。この先にはカゴメタウンがあります、穏やかな街ですよ。一つ伝説、というか昔話もありますから」
「昔話?」
きょとんとブラックが首をかしげ立ち止まる。私もつられて立ち止まれば、案内の人はにっこり笑う。私はよく知りませんが、カゴメタウンには長生きのお年寄りもいるのでお話を聞いてみては如何ですか。そういわれて私達は顔を見合わせる。もしかして、それってさっき話してた昔話のこと?疑問を抱きつつ、とりあえずNがいるか確かめなければならないから、頭から昔話を追い出してゲートを抜けて道へ出る。ああ草が多い、一応道っぽーいのはぐるぐるあるけど、…こんな朝早くからでも人はいる者ね。あれはトレーナーだったりするっぽい。
「とりあえず、朝の訓練がてら…バトルする?」
「誘われれば、ね」
私とブラックは腰のボール―相棒に手をかけて歩き出す。一番信頼できるパートナーがいる。Nを探す一番最初の時なんだから、はくをつけたいもの。きらりと光った目が私達を捉えた瞬間、私とブラックは寸分狂いも無く同時にボールを宙へ放り投げた。
05 end // 10.10.04