本当は、ブラックの伸ばした手は―貴方の手を掴みたかったんだよ。



その手に愛を、頬に唇を

(そして囁くは貴方への愛しい想いだけ、)(02-side.White)



私が泣いていいはずもないのに、涙が止まらないのは何故だろう。ブラックが部屋を出た後、消えたはずの涙はまたあふれ出てきて、どうしようもなくて私は嗚咽を漏らしながら必死に涙を消そうと、止めようと何度も拭った。この涙は後悔の涙なのだろうか、それとも、悔し涙?私はNに謝罪をちゃんとし切れてない、そして彼に、ブラックが寄り添うことを、ちゃんといいよって、いえてない。わたしの許可なんか要らないだろうけど、それでも私は今まで過剰反応し、ブラックに近づく事を拒否していた。彼の頭には私への負い目がずっと駆け巡っていたのを、なんとなく知っていたし、そのせいでブラックに好意を寄せていたくせに、はっきりとしていなかった。それはきっと私の所為。ならば、私は全ての決着がつくあの時、謝罪をして彼を許して、ブラックと一緒に、笑って、幸せになって―そう、言いたかった。全部のキモチを込めて、貴方をちゃんと貴方として認めて、…私は貴方とブラックを見守っていたかった。虫がいいって言われるかもしれない、でも、私は―そうすることで、私が傷つけた分、そしてポケモンのことで傷ついたNが、幸せという意味をちゃんと知っていくのを、この目でちゃんと…見て、感じて、…よかったねって、素直に、笑いかけたかった。



「っ、ぅ、く、…ふ、ぅ」



見上げた窓に映る美しい月。今Nはどこからこの綺麗な月を見ているんだろう。ううん、空を見上げるなんてこと、忘れてしまっているかもしれない。ブラックならきっと、これをみて、静かに笑うはずだよ。それをN、貴方だって見たかったでしょう?側に居て、見たかったでしょう?どんな意味合いであろうと、貴方は特別な存在となったブラックのそばに居たかったはずなのに。拒まれたことを私は知った瞬間、どうして今その手を取らないのって言いたくて。でもそれがいえなくて、上手く貴方へのキモチが変わったことを言葉にも表せなくて、どうしていいか分からなくて。ただ、馬鹿って、それしか言えなかった。…忘れられない、彼の寂しそうな顔が。ブラックを見つめたあの瞳が。ゼクロムに乗った、あの背中が。



「―、…どこ…行ったのよ…っ!」



追いかけてもう一度引き止めるには、貴方の行く先も分からない。貴方にかける言葉が見つからない。私に貴方を探す資格は、ある?ブラックに謝って、貴方を追いかけてって言う資格は、ありますか?…貴方達の幸せを願う権利は―――ありますか?



見上げた窓の外の月は美しいままで。気付けば涙は静かに止まり、身体は重く疲れていて、声ももう―静かに枯れていて、かすれていた。







とん、とん、と。静かに階段を降りたら、髪を拭いているブラックが此方を見上げて私に気付いた。その顔は笑おうとしていたけど、笑えていなくて。彼から表情を奪ったのが私とNだということが苦しくて、何か言いたいけれど何を言っていいか分からなくて。げほげほと咽て咳き込めば、私は声を振り絞りブラックに声をかけた。



「ブラ、ック…」

「ホワイト、声…かすれてる。目も凄く赤い、し……体がよろめいてるよ、」

「そんなのは、いいの。…Nが行ってしまった。私は、ちゃんと、あやまれて、ない…ごめんなさいって…いえて、ない…ブラックとNが、手を取り合うのを、いいよって、…笑って、言えてない…っ」

「―ホワイト、もういいよ、今日は疲れただろ、風呂入って、ご飯食べて、寝なよ。ほら、風呂は沸かしてあるし、」

「っ、ちゃんと、きい、て!」



パジャマの袖に包まれたブラックの腕を両手で掴めば、私はもう一度咳き込む。かれた声を無理に出したせいで呼吸が少し可笑しくなったけどどうでもいい。お願い、ちゃんと、ちゃんと――聞いて。たとえ、私の顔を見たくなくても、声を聞きたくなくても。私が、もう…要らないとしても。



「…ホワイト…、」

「N、は…きっと、ブラックの側に、居たかった、はずだよ…ブラックも、そうで、しょ…?…じゃあ、一緒に、いなよ。ふたりは、しあわせになって、いいんだよ…っ?私なんて、もう…気にしなくて、いい…Nだって…罪の意識を感じることも、ないし…人からポケモンを奪った罪は、多くのポケモンに、愛を以て接しることで、昇華、されるよ…だから、だから…っ」



Nを、探しに行こう?



―私の言葉にブラックは目を見開き、そして私は、身体から力が抜けてブラックの腕を放し、後ろに倒れる。ブラックが慌てて私の腕を引いてくれたお陰でブラックに抱きついてなんとか体勢を取れたから、ごめん、と呟いて体勢を立て直す。ブラックの言うとおり私は疲れてるらしい。でも、私よりブラックの方が疲れてる。だからもう今日はこれ以上何も言わない。いえない。



「…ごめん、返事は、…今度でいいから」

「ッ、ホワイト…」

「おやすみ、ブラック」



私はブラックの手をするりと交わしてお風呂場へ向かう。ばたんと閉じたドアの後ろで、ブラックが唇をかみ締めるのと同時に、私はずるずるその場に座り込んだ。







02 end // 10.10.02



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