つながった縁は、そう易々と千切れたりしない。



その手に愛を、頬に唇を

(そして囁くは貴方への愛しい想いだけ、)(11-side.White)



両手でボールをつかみ息を吐き出せば、ブラックがおめでとうと笑う。私は頷くとキュレムに視線を落とし「これからよろしくね」と語りかける。キュレムは頷くと、目を細め『我に名を』と呟いた。名前―そうか、名前。名前は大事なもの。私から彼に与える最初のそれは、何がいいだろう。ブラックで「神話で氷の神様っている?」と尋ねれば、「俺が用いる神話にはいない。だから、或いは愛の女神からもらうのがいいんじゃない?」と首を傾げられた。私とキュレムが紡ぐ絆は、愛情。そのほうがいいかもしれない。



「…あ、キュレムは永い時を生きてきたんだよね。なら、羽もあるし…不死鳥のポイニクスの名前もいいかもな…」

「ポイニクス…不死鳥、ね。でも、なんだか私には違う気がする」

「そう?俺は、キュレムに名づけるのはこの名前、かな。…ん、そうだ、愛の女神のアフロディテっていう神さまの呼称にウラニアってのがあったかな、…違うかもしれないけど」

「いつもの神話の、やつ?」

「だったと思う。別に、ホワイトが思うとおりの名前でいいと思うけど」

「…ダメ、まだ、決まらない」



ごめんね、とキュレムに視線を向ければ「構わない」とキュレムが軽く横に頭を振る。腰元のホルダーに新しくキュレムのボールをひっさげると、「そろそろ此処を出よう、Nがまだ近くにいるかもしれない」と急かされ私はブラックの後を追いかけて走っていく。―途中振り返り中央の台座を見つめる。そこには、長い髪の女性と切りそろえられた髪の女性二人の姿が見えた気がしたけれど、気のせいだ。だって誰もいないはずだから。



ジャイアントホールを出た私たちはNの姿がないか辺りを探す。けれど残念ながら彼はもう居なくて、多分次の場所に向かったんだろう。ブラックがぐっと手に力を込めるのが分かる。私はブラックの肩に手をやれば少し間をあけていう。



「ねえ、一度カゴメタウンに戻りましょう?ポケセンに寄っていかなきゃ」

「…ん、ああ…そうだね」

「私の水丸も少し休ませたいし、焦っても、Nはどこかへ行ってしまうだけ。必ず出会えるもの、ゆっくりいきましょう?」

「…うん」



ブラックの背中を軽く叩けば私はブラックの手を引いて歩き出す。ふいにキュレムがブラックには聞こえないよう、私にだけ語りかけてくる。



『―あの緑の男を恋しく思っているのか、黒き者は』

「……大切な人だから、ブラックにとって…Nは」

『そうか。ならば早急に探すのがいいだろう、あの男はお前たちから逃げていき拒絶することで、芽生えた人への愛が消えていく』

「え……?」

『あの男の瞳には、光を見つけたことがあるというのが色濃くあった。しかしそれが消えれば、あのにごった目が暗く淀む事だろう。絶望を知っている者は、動くのをやめ諦めた時本当の意味で終わりを迎えてしまう。ホワイト、お前はあの男を何故追いかける?』

「……私、は…ブラックを好きで居ていいって、ちゃんといいたい…私が責めてきたことを、謝りたい。戻っておいでって、言いたいのよ」

『…………ならば早く見つけてやることだ。あいつは欲しい物をいらないという、意地っ張りの子供だ。迷子で我侭な子供を見つけるのは、家族の役目。お前にはそれを担う義務がある。そしてブラックには、愛しい者を消して手放してはならない義務がある。…本当に失ってからでは意味がない』

「っ…わか、ってるわよ…わかってる」



唇を噛めばブラックが「どうしたの?」と首をかしげてきて、私ははっとして慌てて適当に笑い流す。…分かってる。早くしなければならないことくらい。Nが逃げれば逃げるほど、全部が遠くなってしまうのだって分かってる。キュレムは私が黙ったことでもう何も言うまいと目を伏せて黙り込んでしまう。水丸がボールを揺らして心配そうに私を見る。大丈夫、大丈夫。私は、大丈夫。…ああこんなにつかめない雲がもどかしいと思ったことは、ない。







11 end // 10.10.15



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