逃げてきたというのに、僕はもしかしたら、結局は逃げられないのかもしれない。



その手に愛を、頬に唇を

(そして囁くは貴方への愛しい想いだけ、)(10-side.N)



あの場所から逃げた翌日の早朝。僕はゼクロムにある場所に連れてきてもらった。ソウリュウシティから行ける、カゴメタウンという場所―。その場所には前から不思議なポケモンがいることを感じていた。そのポケモンは優しい子だけれどとても不器用で、ある女性たちがそのポケモンの世話をしていたようだ。皮肉にもその縁があるのは、ブラックとホワイトの先祖。長い美しい黒髪の、口元にほくろのある女性が最初のきっかけだというのを、僕はそのポケモンがいるだろう、ジャイアントホールに降り立ったとき知った。教えてくれたのはそのポケモンのいる場所周辺に生息するポケモンたちから。親から子へと代々その話は受け継がれていたらしい。まあ、それについてはまたいつか、語る機会があれば、どこかで…好奇心旺盛な子供たちにでも語ってやろうとは、思う。とりあえず、その女性は少し不思議な人だったらしく、いつしか巡り合えるはずだとそのポケモンに言い残したらしい。それから数十年たって、孫という新しい女性が訪れてきた。同じように綺麗な黒髪を頬で切りそろえた、凛とした女性。



孫娘は祖母から話を聞いていたらしく、そのポケモンと縁があることを知っていた。そして訪れたとき、そのポケモンが死んでいないことをしり、語ったらしい。自分と祖母はあなたと縁のある血のようだ、ならば私の子孫があなたと縁を結べるはずだと。それから何代も時代が変わり、ブラックとホワイトが訪れようとしている。僕はそれが運命めいていて、少しだけ笑ってしまった。僕とブラックが対たるゼクロムとレシラムに出会えたように、またそのポケモンと女性たちは不思議な縁をもつ間柄で、子孫の「彼女」が一番色濃く血を受けて主人となるとは。女性は感受性が強く、また子を産む力を持つからか、一際精神的に強い力を持つ。ブラックじゃなくて、ホワイトを推薦しておいてよかったかもしれない。語られた話を思い出し、洞窟を出てきた僕に今朝その話をしてくれたポケモンたちがどうだったかとたずねてきて、僕はにっこり笑った。大丈夫、もう孤独ではなくなるよ。―彼は消して悪いだけの存在ではない。誕生した場所には、なにもなくて。ただずっと探していて、己の能力で最期の願いを叶え、不吉とされた。ただ、それだけ。孤独を癒すには、孤独を知り愛をしる人が一番効果的だ。特にホワイトは、僕に似ていて非常に脆い。ブラックが強く優しい精神の持ち主ならば彼女は儚く優しい精神の持ち主だ。ブラックでもよかったけれど、今のホワイトには―そして彼には運命と思える主人とポケモンはお互いがよかったはずだ。



「それにしても、僕が訪れた場所もまた、あの二人と縁が深いなんてね」



孤独のポケモンの声が聞こえた気がしたからきてみたらこうだった。なんという偶然、笑うしかない。洞窟内ではなぜだかホワイトが見えた。多分縁の深さで彼女が見えたのかもしれない。世の中には、理論だけでは説明できないことだってある。たとえば僕のこの能力とかそうだ。…まあそんなのはいい。



「二人が来る前に立ち去らないと…」



ポケモンたちに別れを告げれば僕は歩き出す。逃亡した翌日に彼らに出会うわけには行かないし、今は会う気もない。彼らの顔を見るのはまだ怖いから。逃げるように足早にそこを立ち去った。ただ不安なことがただひとつ。彼はどうやら勘のいいポケモンだったらしい。知能も高くまた人との交流にも慣れていた。愛を知らないくせに、慈しみを知っている。僕がしゃべった言葉から、僕の気持ちを悟っているかもしれない。



「…僕が愛している相手を見つけられて、それを二人にしゃべってたら厄介だな」



彼は僕が訪れたこともこれからのことも楽しんでいる。だから、僕はそれだけが心配だ。――もっとも彼は鈍感だし彼女は彼に出会ったとたん一杯一杯になるだろうから、気づかないだろうけど。僕はゼクロムの背に乗って再び空へ戻る。…地上で、色違いの帽子の二人が見えた気がした。







10 end // 10.10.09



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -