(ブラック手持ちのエンブオー&ケンホロウ&ムーランドからみたNと黒)



「いったい何時になれば、Nさんと主人は通じ合うんですか?」



小さなボールの中でイライラしたように足を何度も叩きつける。そのうちその足のせいでボールに皹が入るんじゃないだろうか、エンブオーであるカークスはうるさいと睨み付ける。ボールが壊れて困るのは彼らの大切な主人だ。イライラするのは分かるが、態度を少し抑えろということらしい。



「仕方ないじゃないですか、あまりにも見ててもうもどかしいというかいっそイライラします」

「二人とも自分が片思いだと思ってるんだから仕方ないですよ、」



やんわりと止めるは、Nと同じ名を持つムーランド―ハルモニアだ。見た目の貫禄ある姿同様どっしりと座り、冷静で静かに諭している。普段は冷静なケンホロウたるアイオロスも彼には適わない。諭されですが、と言うもすぐにくちばしを軽くボールに押し付ける。



「どうみても、主人もNさんも…お互いすきすぎてどうしようもない、なんて具合なのに。何故、あの二人はいまだお互い告白すら出来ていないんですか、私には理解できない」

「Nさんは、私たちが戦ってきたあのプラズマ団の王ですよ。それが二人の間にはあるんでしょう、それに―ホワイトさんのこともありますから」

「あの人が一番認めてて一番嫌がってるからなぁ…俺は無意識のいちゃこらやら熟年夫婦みたいなのより…いっそもうくっついてしまったほうが楽だと思うんだが…」

「難しいでしょう、同性愛というのは禁忌とされるも同然ですし、敵同士、という風になりますから。それに、“彼”はブラックを傷つけまいかとても恐れている。ブラックもまた、Nさんの奥底の傷ついた心や、悲しみを自分が受け止めて癒せるか悩んでいます」

「人間というのは難しいな」

「それは私たちポケモンが楽、という意味ですか?」



じろりとボール越しにアイオロスが睨み付けるも一番の古株であり実力者のカークスはへでもない。一々喧嘩腰になるんじゃありませんよ、そうハルモニアが言えばまさに鶴の一声。二人はすみません、と軽く頭を下げる。一番の古株はカークスで二番目がアイオロス、三番目がハルモニアという風になるのだが、ハルモニアは主人の代わりに新入りの面倒を見ていた「父」でもある。二人も最初のころよくハルモニアと遊んでいた。あのころはどちらかといえば、二人がハルモニアと遊んでいたはずなのだが、ハルモニアが進化して幾たびに主人のように精神的成長が大きく、いつのまにか立場逆転しブラックの手持ちの中で彼は「お父さん」となっていた。いやすでにおじいちゃんかもしれない。さすがにそんなことをいえば、「かみつかれる」ので言えないけれど。



「あ、ほら、Nさんが居ますよ?」

「…相変わらずいろんなポケモンと戯れますね」

「ああボールが揺れる。嬉しそうに走ってるな、主人は」

「ほら、Nさんがほんのり嬉しそうにブラックを抱きしめてますよ」

「ここまでしてて、何故付き合ってないんだ…?俺にはもう理解できない」

「人の心は難しいんです。それが分かるようになるには、そうですね。たくさんのポケモンを相手にし、たくさんの人と触れ合うことが一番です」

「…ハルは旅先の人によく撫でてもらってたからな」

「私は嫌です。小さい子供が“お空とんでー!”と急かしてきますから。私は主人のための飛行ポケモン!主人とホワイトさん、そして主人の認めし人以外は嫌ですよ」

「あーはいはい」



カークスが適当に流せばハルモニアはじっと見上げ二人を見る。「ちゃんとご飯食べてる?」「食べてるよ、それよりブラック少し痩せた?ホワイトから言われない?」「あー、少し。ちょっとバトル続きで疲れてて。」「じゃあ今日は、ゆっくり休もう。僕でいいなら、付き添うから。」「…N、が…いい…」「あっちのほうがいいかな、って何かいったかい?」「…なんでもないっ」「走るのは禁止、おいでブラック」「…ん」それらのやりとりを見ていれば、大人のハルモニアが一言。



「純情の思春期の少年少女みたいですね」

「…あれか、少女漫画とかいうやつ?」

「ああ、まさにそれです。いやはや、それですよそれ。そのたとえが浮かびませんでした」

「少女漫画のほうがマシじゃないですか、所詮は紙面上の物語。これは、紛れもない現実の恋話なんですから」

「おや、何故でしょう。アイオロスからそんな言葉を聴くと」

「俺…背筋がぞわっとする。今日はちょっとバトルに参加しないほうがいいかもな…」

「失礼な、私は二人が早く幸せになればいいと思ってるだけですよ」



―――そんなポケモンたちの声は当然「N」には聞こえているはずだが、ブラックが手を握ってきたので顔を赤くししどろもどろしている彼の耳には届いておらず。数メートル離れた後ろからホワイトが二人を見かけて、「…あれで付き合ってないなんて嘘よ」と重たいため息をついていたのは、後の話。



もどかしいふたり

(ふたりの幸せを願うはなにも人間だけではありませんよ)



10.10.08


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